いわき市の「小名浜石油」は東電の広野火力発電所を含む地域全体に石油製品を供給していたが、原発事故でいわき市の放射線量は一時急上昇した。会社は従業員の安全のため苦渋の決断をし、事業の一時閉鎖を決めた。しかし原油は一定の加熱を続けないと固着する。再開時に再加熱すれば完全に元に戻るかは確かではなく、大事故になる可能性すらあった。すると四人の社員が装置を守るため自発的に残留を決めた。
一方、原発事故後いわき市を中心に福島県ではガソリンや軽油の供給が需要に全く追いつけず、日常の必要はもちろん原発からの住民の避難も困難になっていた。誰かが放射能被曝の危険を冒してタンクローリーでガソリンスタンドに小名浜石油の製品を届けなければならなかった。すると、10名余りの運転手が会社 ( 「物流サービス東北」)の呼び掛けに応じて出勤した。給油待ちの1キロを越す車列が待つあるガソリンスタンドにタンクローリーが到着すると歓喜の拍手が到着を歓迎した(2万リットル搭載なら数百台の車の給油が可能だったろう)。
小名浜石油の残留社員と物流サービス東北の運転手のプロフェッショナルとしての責任感には脱帽の他ない。日本の経済そして国民生活はこうした人びとの使命感によって支えられていたのである。さらに私はこの事実に着目し克明に調査報道した記者たちの努力にも拍手を送りたい。これだけのことを世に知られないままにしてはならなかったと思うからである。これもある種の使命感であろう。