2018年12月29日土曜日

下北雑感

NHKの番組『小さな旅』は前身の『関東甲信越  小さな旅』の頃から旅好きの人間にとって魅力ある小番組であるが、今朝は「海荒れて恵あり」と題する下北半島北部の風間浦村の漁師一家を取り上げていた。「大間のマグロ」ほどの話題性はないが、同地は近年アンコウ漁が盛んになった。番組はそれまでまったく漁の対象でなかったアンコウを漁具を改良して名産とした老漁夫の一家を紹介していた。たった一人の工夫が村に貢献した事実も素晴らしいが、荒れる大自然を相手の生活の苦労も喜びも都会人が忘れ去ったものだった。

同地には下風呂温泉という素朴な温泉地があり、イカ漁の季節なら津軽海峡の漁り火を見ることができる。私に季節の記憶はないが、ここの「海峡の宿  長谷旅館」に泊まったことがあり (現在は休業中? ) 、テレビ画面に同旅館の看板を見出し懐かしかった。作家の井上靖が泊まった宿 ( 小説『海峡』)と知り立ち寄ったのだが、番組に宿のシーンは無かったので昔のままかは分からない。それでも赤い風ぐるまが回る恐山の風景とともによい思い出になっている。

下北半島といえば内田吐夢監督の映画『飢餓海峡』も忘れられない。殺人を犯して北海道から逃げてきた犯人は、何も知らない宿女中に親切にされる。のち本州で成功して資産家になった犯人( 三國連太郎 ) は昔を懐かしんで訪れた女中 ( 左幸子 ) を金欲しさの訪問と邪推し殺してしまう。主演の三国も左も既にあの世に旅立った。それでも名作に出演してこの世に在った確かな証拠を残せた。もって冥すべきか。

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