2015年6月19日金曜日

「いい戦争はない」 しかし...........。

もう再生の仕方を忘れかけているVHS方式で録画したドキュメンタリー番組に、1982年のフォークランド戦争を扱った英国のグラナダテレビ制作の「勝利の代償」がある。英国とアルゼンチンの間のフォークランド諸島の帰属をめぐる戦争は英国の勝利に終わり、英艦隊の帰国を軍港で迎える人びとの熱狂はこれが日ごろ冷静な英国人かと思わせた。第二次大戦後、旧植民地の強権的政権の時に身勝手な要求に、反植民地主義の世界的趨勢の故にたびたび譲歩させられて来た怨念が爆発したのだろう。フォークランド諸島は過去に両国間に帰属争いがあったとはいえ150年来の英領で、僅かな住民も英国系だった。

そんな中でもこの番組は英国の「正義」にあえて疑問は呈さないとはいえ、両国の兵士たちの苦難、夫を戦死させた英国人妻の悲しみを「勝利の代償」として正面から取りあげ、まだ勝利の熱狂が残って居たであろう英国のメディアの水準の高さを示して居た。私は一再ならず演習の一回分をこの録画の再生に当てた。  

作家の瀬戸内寂聴氏が新安保法案への反対集会で「戦争にいい戦争など絶対にない」と訴え、それが某新聞の記事の見出しとなった。確かに「いい戦争」などない。しかし止むを得ない戦争はある。国連憲章で国家の自衛権が認められているのはそのためだろう (たとえ自衛が口実として利用されることが多いとしても )。前大戦でナチスドイツ軍と闘った米国や英國や旧ソ連の兵士たちは無駄死にしたのだろうか。私はそうは思わない。

私は芸術家と宗教者の政治批判は用心して聞くことにしている。むろん立派な発言が多い。しかしときに溜息をつきたくなる発言もある。彼らは相対的な正義や真理に満足せず、「絶対の探求」をしたがる。しかし政治は相対的価値の世界である。政治学でよく聞く言葉に「政治はより小さな悪 (lesser evil)の選択」がある。政治家は問題を善と悪、正義と不正義の対立として描きたがるが、本当にそうであることは少ない。とくに誰にも反対しづらい「正論」には用心したい。領土紛争はその最たるものであり、その時我が国のメディアが「世論」に抗する覚悟があるかどうか (私は芸術家でも宗教者でもないので「絶対にない」とは言わない!)。

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