ベルリン映画祭は社会性を持った作品が重視されるという特色が指摘されている。そこに出品された山田洋次監督の「小さいおうち」は原作(中島京子)とやや異なる。原作は戦前の東京郊外の中流家庭の主婦と若い女中の厚い信頼と友情の物語であり、映画でもそのシチュエイションの大筋は変わらない。しかし、原作ではいわゆる「十五年戦争」は背景として通奏低音のように流れてはいるが、主題からは遠い。それに対し映画では当時の世相としても筋の運びの上でも戦争は大きな影を落としている。これは山田監督の政治的信条の反映と見るべきか(氏は乱暴に分ければ左翼と言ってよかろう)、それとも映画として淡々と日常生活を描くだけでは興行成績が期待出来ないといった考慮(当然である)が働いたためかは断定できないが、他ならぬベルリン映画祭を出品先として選んだのは、社会性重視というこの映画祭の理解しての上であろう。過去にも出品した山田監督について映画関係者が、その程度のことを知らないとは思えない。黒木華の女優賞獲得は、作品賞をプレゼント出来ない関係者の山田監督への配慮もあるのではないかと私は邪推(!)してしまう。
他方、宮崎駿監督の「風立ちぬ」も長編アニメ部門のアカデミー賞の受賞を逸した。この作品はご存知の通り、ゼロ戦の設計者堀越一郎をテーマとしており、我が国では戦争の道具である戦闘機の設計者を敢えて主人公に選んだことへの否定的反応も一部にあったと聞く。私は堀越技師の仕事への情熱、最先端を行くパイオニアとしての「熱い心」に、分野こそ違え同じくパイオニアの「熱い心」を持つ宮崎監督は強い共感を抱いたのではないかと想像する。その対象が戦闘機かアニメ映画かを私は重視したくない。
その意味でも「風立ちぬ」のアカデミー賞落選は私には残念だったが、代わりに受賞したディズニー・アニメの「アナと雪の女王」の技術スタッフに長男が名を連ねており、アカデミー賞の像の重さを文字どうり実感した(スタッフの間で回し持ちしたのであろう)のは、本人にとっても良い記念となった。三月後半の上映には「風立ちぬ」とどちらが優れているか、冷静に(?)判断したい。
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