私は前進座製作の映画『箱根風雲録』( 1952年 )を多分見ているが、劇場での上演作品としては井上靖原作の『天平の甍』しか記憶にない。中国で仏教を学ぶため渡海した5人?の若い僧たちが主人公を除き挫折や方向転換を経験する。或る者は寂しさに負け現地妻と結婚し帰国を断念させられる。或る者は自分の能力の限界を知り仏典の翻訳と将来 ( 持ち帰ること ) に専念する ( その仏典は海難を避けるため海中に投ぜられる ) 。或る者はインドに出奔し行方知らず。或る者は中国の高僧鑑真を日本に招くことに自分の使命を見出す。ただ独り、戸惑いながらも愚直に仏教を学んだ主人公は帰国後重用される。
ちょうど留学をひかえていた私には『天平の甍』の渡海僧たちの生き方は他人事とは思えなかった。そこに偶然、前進座の『天平の甍』の名古屋公演があり、長十郎らの力演に感じ入った。前進座の演劇活動はいまも続いているが、あの頃がその活動の山脈の中のひとつの頂点だったのだろうか?
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