2020年1月19日日曜日

前進座の足跡

朝日新聞の土曜版beの先週号 ( 1月18日 )に演劇集団の前進座の歴史を辿った記事が載っており、断片的にしか知らなかった私には大変興味深かった。歌舞伎界の封建制や因習に反発して前進座の2人の若者の中村翫右衛門と河原崎長十郎が、固い結束で戦前戦後の演劇界に大きな足跡を残してきた。しかし、戦後の翫右衛門の新中国への一時亡命や、長十郎の中国文化革命への心酔などが契機となり、2人は袂を分かつことになったとのこと。両雄並び立たずの側面も皆無ではなかったろうが、高い理想が歴史にもほんろうされ和解を見ることなく両人の相次ぐ死で終ったのは痛ましい。

私は前進座製作の映画『箱根風雲録』( 1952年 )を多分見ているが、劇場での上演作品としては井上靖原作の『天平の甍』しか記憶にない。中国で仏教を学ぶため渡海した5人?の若い僧たちが主人公を除き挫折や方向転換を経験する。或る者は寂しさに負け現地妻と結婚し帰国を断念させられる。或る者は自分の能力の限界を知り仏典の翻訳と将来 ( 持ち帰ること ) に専念する ( その仏典は海難を避けるため海中に投ぜられる ) 。或る者はインドに出奔し行方知らず。或る者は中国の高僧鑑真を日本に招くことに自分の使命を見出す。ただ独り、戸惑いながらも愚直に仏教を学んだ主人公は帰国後重用される。

ちょうど留学をひかえていた私には『天平の甍』の渡海僧たちの生き方は他人事とは思えなかった。そこに偶然、前進座の『天平の甍』の名古屋公演があり、長十郎らの力演に感じ入った。前進座の演劇活動はいまも続いているが、あの頃がその活動の山脈の中のひとつの頂点だったのだろうか?

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