一番その場所にふさわしくなかったのは信州諏訪湖畔の、天竜川がそこから始まる釜口水門の傍の小公園にある「琵琶湖周航の歌」の碑である。作詞者の旧第三高等学校生の小口太郎の脳裏にあったのは故郷の諏訪湖畔の風景だったというのが長野県人の言い分なのだが、それで滋賀県人が納得するとはとても思えない。
美空ひばりの「みだれ髪」の碑は福島県の南端に近い塩屋埼灯台にある。観光旅行の途中に立ち寄っただけで私はひばりの持ち歌にその歌があることも知らなかった。数多いひばりの歌の中でも結構知られた歌らしく、確かに心に残る歌ではある。
東北地方の桜の名所の一つに北上展勝地がある。私が訪れた時はわずかに花の盛りは過ぎていたが、大河北上川の風情はあり、そこに「北上夜曲」の碑があった。往時そのあたりの物産品を河口の石巻まで運んだ和船が復元されて係留してあり、北上川の水運用としての価値をしのばせられた。
信州の小諸城址には以前から藤村記念館があるが、近年そこに藤村が教えた小諸義塾の記念館が加わった。その前に藤村の詩に藤井英輔が作曲した「惜別の歌」の碑があった。もともと作曲者の母校中央大学の学生歌であり、彼が、学徒出陣する友の無事を祈って作ったと聞く。そうした由来を聞けばいっそう心に染みる歌である。