伝説の吸血鬼ドラキュラの城のあるトランシルヴァニア地方は中世以来ルーマニアとハンガリーとの係争地であり、ハンガリーは同地をオスマントルコの侵入から防衛するためザクセン人 ( ドレスデンやライプツィヒのある ) を多く住まわせた。女性二人はドラキュラの城と共に幾つかのザクセン人の城や町を訪ねる。最後の訪問地ブラショフにはザクセン人が建てた大聖堂があり、たった一人のドイツ人司祭が守っていた。
トランシルヴァニア地方は第一次大戦でハンガリーが敗れてルーマニア領となったが、同地のドイツ人は第二次大戦後追放されて難民としてドイツに帰った。そのためドイツ人が稀なのである。司祭を含めて誰もそのことに言及しなかった。古傷に触れたくないのはいずこも同じである。アナウンサー氏はどこまで知っていたか?
むかし、トランシルヴァニアの歴史を専攻したいとの女子の大学院生を指導したことがあった。ハンガリー支配に対するルーマニア人の民族的抵抗運動を論文のテーマとしたので専門研究者の助力を仰いだが、英語の関係論文ぐらいは一緒に読んだ。そのためブラショフをはじめ幾つかの都市名は私も覚えていた。学生はその後同級生と二人でルーマニア旅行をしたが、チャウシェスク独裁の時代で電力不足のため夜行列車に灯火はなく、本当に恐ろしかったと聞いた。心から同情したが、ハンガリーに対するルーマニア人の文化的抵抗を研究した彼女が、抑圧者ハンガリーの首都ブタペストに着くまで生きた心地がしなかったと聞くとおかしくもあった。最悪の時期のルーマニアではあったが、ブタペストはヨーロッパで最初に地下鉄を持った文化都市だった。
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