2015年12月29日火曜日

日韓の合意成立

慰安婦問題につき日韓両国政府の合意がなされた。両国がいがみ合うのと合意が成立するのとどちらが良いかと問われれば合意成立が良い。むろん合意の内容が大事だが。

合意に反対する意見もあろうが、日韓いずれの側が大きく譲歩しているかと言えば韓国側ではないか。たしかに日本側も10億円の資金拠出に応じたが、すでにアジア女性基金の際、基金の半分以上を政府が支出している。首相のお詫びも今回が初めてではない。代わりに今回は「不可逆的解決」の文言が合意された。これまで韓国側が合意をひっくり返して来たと認めるようなものであり、韓国人がどう捉えているかは知らないが、私には韓国に名誉な文面とは思えない。大使館前の少女像の撤去は韓国は「努力」を約束したに過ぎないが、もし実現しなければ ( その可能性が高い ) 、韓国政府の権威にマイナスになろう。

韓国側の譲歩がより大きいとの私の判断が正しいとすれば、朴大統領は大きな決断を下したことになる。譲歩の理由はまず、未だ詳細不明だが日韓両国への米国の圧力が大きかったのだろう ( 私は第三国の口出しを好まないが ) 。また、日韓不和の韓国経済への悪影響も考慮されたろう。しかし、それでも私は朴大統領の英断だと考える。先月の日韓首脳会談は大統領と安倍首相との間のわだかまりを大きく除いたように見える。考えてみれば両氏とも保守政治家であり、朴大統領としては50年前日韓請求権協定を結んだ父親を激しく批判する教科書を擁護する人たちと対日問題であくまで共闘する気にはなれなかったろう。

朴正煕元大統領に対する評価が韓国で二分されていることは私もむろん承知している。朝鮮戦争の数年後だったろうか、ソウルの街の斜面にびっしりへばり付いた掘っ建て小屋に近い住宅群のフィルムを見て衝撃を受けた。日本の資金を利用してでも日本に追いつきたいと元大統領が考えたとしても私にはそれも愛国心だと思える。

現大統領の前途は安倍首相よりはるかに困難だろう。それを予想しつつも彼女が決断したとすれば高い評価に値するのではないか。次の大統領がまたゴールポストを動かす可能性は低くないだろうが、現大統領の決断はそれとして評価すべきだろう。

2015年12月28日月曜日

阿倍仲麻呂の実像

11月5日放映のNHKの「英雄たちの選択   遣唐留学生 阿倍仲麻呂の実像」を遅まきながら録画で見た。日本古代史に無知な私には番組出席者たちの発言のどこまでが真実かは判然としないが大変興味深かった。

仲麻呂については一般には百人一首の「天の原  振りさけみれば春日なる...........」で望郷の歌人として知られ、また玄宗皇帝に寵愛され唐の政府高官になったこと、詩人の李白や王維と親交があったことでも知られる。しかし、異郷に死んだ彼は帰国を許されなかったというよりも帰国を希望せず、唐の国政への参加や盛唐詩人たちとの交流を選んだのであり、「望郷の歌人」視はふさわしくないとの主張は納得できた。

結局かれは35年後にようやく帰国船に乗ったが、暴風雨のためベトナムまで流され帰国は叶わなかった ( 李白は「亡き友」を悔む詩を書いた!)。しかも、彼の帰国を玄宗が許可した理由は仲麻呂に道教を日本に伝え広めさせるためではとの出席者の指摘があり ( 仲麻呂や王維の詩からの推測 ) 、
もし帰国が実現していれば我が国が仏教の受容をめぐって国論を二分して争った時と同じ事態が再現していたかもしれないという。

以上はあくまで帰国していたらとの仮定の話だが、論者によれば仲麻呂は日本外交を助けた名外交官だった。「争長事件」として知られている由だが、753年の元旦の儀式で当初は新羅の使節が日本の使節よりも上席にランク付けされ、日本の使節の大伴古麻呂が出席を拒否しようとしたが、仲麻呂の努力で日本が上席に変わったという (この頃から日本と朝鮮はいがみ合っていたのか!)。他の周辺諸国と異なり中国暦や科挙を採用しなかった日本は形式的には新羅や渤海国を自国と対等と見なしていなかった。

結局仲麻呂は中国文化に魅せられて唐に残留したとのことで、司会の磯田道史氏はかれを「グローバル人材第一号」だったと評した。晩年にベトナムの長官 ( 鎮南都護 ) を務めたかれは日本人とベトナムの係わりの先駆けだったとも言える。日本人としてではなかったが。

2015年12月25日金曜日

瀬戸内海の水質改善が悩み?

毎日新聞に瀬戸内海の水質の「貧栄養化」が問題となっているとの記事があった ( 12月24日 )。隔世の感とはこういうことを言うのだろうと思った。

今から40年ほど前、沿岸地域の工業化による瀬戸内海の水質汚染が問題になっていた。工場排水や住民増加による生活排水の増加により瀬戸内海の「富栄養化」が進み、赤潮などの被害が拡大していた。当時、沿岸の大製鉄工場に勤務していた高校時代の友人を訪ねたことがあったが、瀬戸内海は東も西も狭い海峡が出口で、外海と海水が入れ替わることは殆ど期待できないと嘆いていたことを思い出す。そうして1973年に水質規制の法律が作られた。

ところが今では瀬戸内海の水質汚染が後退した結果、海水の「貧栄養化」が進み、そのため漁獲量は46万トンから20万トン以下に減少し、アサリに至っては100分の1に減ったという。アサリの漁獲量は各地でも減少しているので原因は単純ではないかもしれないし、他の漁獲量の減少も開発による藻場や干潟の減少も原因の一つと考えられるという。しかし、今年10月、「瀬戸内海環境保全特別措置法」が施行されたというので、海水の「富栄養化」が過去のことになったのは事実なのだろう。悩みの質が変わったのである。

現在、地球温暖化問題で最大の課題となっているのは炭酸ガスの増加である。地球人類の生活向上がエネルギー消費の増大を招くことは明らかで対策が急がれている。エネルギーの過剰消費の抑制とともに、未だ実用化には程遠いと見られる炭酸ガスの地中への封じ込めなど画期的な技術の開発に成功して欲しい。瀬戸内海の「富栄養化」が阻止されたように。

2015年12月16日水曜日

有識者とは?

新国立競技場のA案B案が発表された。高額な建設費のハディド案と比較するせいか、好意的な意見が多いようだ。私も木を活かした両案に好感を持つし、完成時期もむしろ短縮になったようで言うことなしである。前案も斬新ではあり、ブラジリアやネピドーといった広大な新首都にはふさわしいが、今回は適当では無かったようだ。

今朝の『朝日川柳』に、「案出れば前のを褒める有識者」との作が選ばれ、前案が「個性的だった」との撰者の寸評が付いている。今回はハディド案を褒める有識者は少ないようだが、有識者がとかく何にでも批判をしたがる (ケチを付けたがる ?) 傾向を上手くついてはいる。

同じ事は消費税の軽減税率についても言えそうだ。同じ新聞では第一面に「選挙目当て  揺らぐ財政規律」、第三面には「線引き・財源   課題山積」の見出しがおどっている。しかし、消費税の導入時、それが所得税などに比べて低所得者により大きな負担になると私の蒙を啓いてくれたのはメディアだった。そしてその欠陥の是正策の一つとして食料品への軽減税率が挙げられたが、それが今回採用されそうになると、高額な食品を購入する富者がより大きな恩恵を受けると、先の導入時には全く聞かれなかった批判が提起された。

今回の決定に際して与党間の参院選への思惑や駆け引きが目に余ったのは事実である。また、軽減税率には一律課税にはない問題点が続出したのも否めない。しかし、最初に消費税を導入した竹下内閣が選挙で敗退し退陣した例を見れば、不人気が明白な政策の導入に際して駆け引きをゼロにせよとは理想論に過ぎるし、問題点が少なくないからといって一律課税を続けよというのだろうか。メディアはせめて一貫した姿勢を示して欲しいものである。

2015年12月14日月曜日

韓国のポピュリズム司法

先月の靖国神社の公衆便所への爆発物設置の容疑者の韓国青年が再度来日し、その荷物に同じ爆発材料が隠されていたという。前回が失敗だったと考え再度来日したのだろうが、死傷者が出て大ニュースにならなければ失敗なのだろうか。

私はA級戦犯が合祀されている限り首相ら重要閣僚の靖国神社参拝に反対だし、親類縁者に合祀者がいる人は別とし一般閣僚の参拝にも反対である。また、今回の事件で韓国や韓国人一般を云々したくない ( 韓国のネットでもさすがに呆れたという声が多いようだ )。しかし本人を安重根気取りにさせた空気が今の韓国に皆無とも言い切れない。

在日コリアンで韓国人BC級戦犯の名誉回復運動をしている李鶴来さんの記事が『毎日新聞』に紹介されている ( 12月11日 )。それによれば軍属として徴用され捕虜収容所の看守などを務めたコリアンは3000名以上。そのうち148名が捕虜虐待などで戦犯とされ、23名が死刑執行されたという。自身も一度は死刑判決を受けた李さんは、「母国に帰っても『対日協力者』と見られる」と韓国には帰らなかった。元戦犯に対し韓国政府が「『強制動員の犠牲者』と初めて認定した」のは2006年だった。元慰安婦たちが声を挙げた時期が同じころなのは示唆的である。

同じ12月11日の『産経新聞』に『帝国の慰安婦』出版で韓国で起訴されている朴裕河世宗大教授に「石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞」が贈られたとのかなり大きな記事が載っている。自社の特派員が大統領侮辱で起訴されている同紙が大きく取り挙げたのは驚くに当たらないが、他紙がこの事実をまったく伝えないのは不可解という他ない。明白な「学問の自由」の侵害といえども他国の事件にやたらに批判を浴びせて良いとは思わないが、「大勢の考え方に抵抗する存在としての例外は大切にしたい」との朴教授の孤独な戦いを伝えることはせめてもの我々の務めと考えるメディアは無いのだろうか。

2015年12月11日金曜日

報道番組「真珠湾攻撃を検証する」を見て

12月8日の日米開戦記念日のメディアの扱いは8月15日の敗戦記念日の扱いより例年地味だが、今年もその例に漏れなかった。教訓としての重要度は後者に劣らないのに.............。結局私の注意をひいたのはフジテレビの夜のプライムニュースの上記の番組だけだった。

今回の番組のゲストは昭和史研究家の秦郁彦氏と、最近『真珠湾の真実』( 平凡社新書 )を出したジャーナリストの柴山哲也氏元朝日新聞記者  (他に政治学者の三浦璢麗氏)だった。秦氏以外の二人の見解はこれまで目にしたことは無かったが、議論はそれほど対立しなかったし、むしろ一致する部分が多かった。

とりわけ秦氏と柴山氏が同意見だったのはローズベルト米大統領が真珠湾攻撃を予知しながらこれを参戦目的に利用したとの説で、戦後共和党政治家が民主党政権攻撃に利用して ( 歴史修正主義の語源はここだとか ) 以来今日にも追随者は絶えないが、両氏はよくある陰謀史観の一つとしてこれを完全否定した。また、対独参戦を目指していた米政権が日米交渉の決裂を望んでいたとの見解も、米国も東西での両面作戦を望んではいなかったとして両氏とも懐疑的だった。日本側が交渉継続を絶望し開戦を決断した契機として知られるハルノートも原則を述べたもので、日本側が思い詰めるほどのものではなく、交渉を引き延ばして国際情勢の新たな進展を待つべしとの米内元海相の意見が、ドイツ軍のモスクワ攻略失敗の判明 ( 12月8日だった!)を考えれば卓見だったということだった。米国に対する交渉打ち切りの通告がタイピングが予定より遅れ結果として奇襲となったとの通説については、新しい見解 ( 遅れは意図的だったとの )は言及されなかったが、秦氏は一時間や二時間前の通告がそもそも妥当ではなく、交渉打ち切り通告は国際法上の開戦通告とは言えない点で二重の無理があったという。これ以上詳細を伝えることは不可能だが、ともかく冷静な意見交換に終始し、価値のある番組放映となっていた。


2015年12月10日木曜日

北京の大気汚染

冬に入るとともに北京の大気汚染が今年も問題化している。原因は自動車の排気ガスもさることながら、工場や家庭で燃やす石炭の影響が大きいようだ。それでも中国のモータリゼーションの普及が絡んでいることは間違いなかろう。

四半世紀ほど前には中国の大都市の朝は出勤する自転車の大群が特徴的で、当時訪ねた蘇州もその例外ではなかった。乗用車は少なく、日本びいきの現地ガイドはあれらは個人所有ではなく官用車や社用車だと言っていた。数年後再度訪中したときには状況は少し変わり、銀輪部隊はそれほど目につかなかった。 酒と魯迅で知られる紹興の町は奇妙な匂いに包まれており、スクーターや二輪車は電動車 ( バッテリー駆動 )以外は禁止と聞いた。
  
それでも今朝のテレビによると、かつての東京の大気汚染は現在の北京に負けないほどだったという。私自身は大気汚染を当時実感したことはあまり無かったが、1967年ナホトカ航路の客船ハバロフスク号で太平洋から東京湾に入った途端に船の立てる波が茶色っぽくなったのに驚いた。外洋と湾内の違いと言っても東京湾はそれほど小さな湾ではない。当時は今は考えられないほどの汚染の広がりだったのである。

日本の大気汚染は冬の北西風のおかげで他国に迷惑はかけなかったが、中国の場合、九州や北海道には直接影響するし、因果関係は明白ではないが、長野県あたりの落葉松の林が秋を待たずに枯れかかった年もあった。汚染浄化技術は日本の得意の筈。我が国も協力を惜しむべきではない。

2015年12月4日金曜日

英国の対イスラム国 ( IS )空爆強化

英国下院がイスラム国空爆をこれ迄のイラク限定からシリアに拡大する動議を可決した。直接にはパリの同時多発テロの衝撃がなせるわざだろうが、英国自身も先日のチュニジアのホテル襲撃事件で同胞を30人殺された事実も伏線となっていただろう。

動議採決に際してヒラリー・ベン労働党「影の外相」が、「私たちが直面しているのは、寛容の精神や民主主義を軽蔑するファシストたちだ。英議会がヒトラーやムソリーニに立ち向かった時のように、人権の否定を許さず、そして正義のために、我々はこの悪に対抗しなければならない」と発言して「大きな拍手」を浴びた (『朝日』12月4日 )。

ISをファシストと呼ぶことに抵抗感を持つ人は少なくないかもしれない。今回の英国下院の決定への評価は歴史が下すだろう。しかし、IS構成員の非人間性がナチスに劣らないことは間違いない。

最近上映されたヒトラー暗殺を独りで企てたドイツ人を描いた映画を見た人は少ないかもしれない。私は見ていないし、史実としても初耳だったが、当の暗殺未遂犯人が敗戦近くまで獄中ではあるが生存していた事実は、以前のブログで紹介した共産党のテールマン党首のケースと同じである。仮にもドイツが民主共和制を経験していた国である事も無関係ではないのだろうか。

第二次大戦開始前の数年間フランスで首相や参謀総長や野党党首を務めたVIP数人は、1940年のフランス敗戦後開戦責任を追及され、ドイツの強制収容所に送られた。フランス人も世界も彼らが生存しているとは思っていなかったろうが、ドイツ敗戦時ドイツ国内を逃避中に米軍に発見された。収容所内でも彼らは、戦前にドイツの脅威を忘れて愚かな政争に耽ったことの反省を語り合っていた。

ナチスによるユダヤ人虐殺が20世紀の最大級の犯罪であることは明らかである。しかし、ナチスドイツがスラブ民族相手の東部戦線と仏英米を相手とした西部戦線で別種の戦争をした事実はそれほど一般に知られていない。スラブ民族の捕虜と西欧民族の捕虜の扱いは対照的で、前者の扱いは非人道の極みだったが、後者の扱いは文明国間の通常の捕虜処遇と大きくは異ならなかった。彼らの人種理論に忠実だったといえばそれまでだが..................。

2015年12月3日木曜日

コオロギやミドリムシを食する時代?

昨日、どの新聞だったか将来の世界的食料不足に備えてコオロギの食用化の研究に取りかかっているという記事があった。牛肉に比べて必要な水資源は百分の一で済み、栄養価も高いという。イナゴが食べられるのだからコオロギは駄目とは言い切れないが (あんがい美味?)、そんな時代が来て欲しくないとは思う。

以前から食用としてのミドリムシの研究が進められていると聞いていたが、一昨日だったかジェット機の燃料になるという記事もあった。せめて燃料で留まって欲しいものである。

TPP交渉の内容がかなり明らかとなって来た。少なくとも農業分野に関しては悪い結果ではないと思う。消費者にとって肉類や果物が安くなるのは歓迎だろう。それに対し穀類生産への影響は当面少ないだろう。

農業に転職した人が補助金の種類の多さに驚いたと読んだことがある。農業団体を選挙で敵に回したくないのは与野党を問わないことの結果だろう。しかし補助金が手厚いとしても米豪などの外国との耕地や牧場の面積差はそれ以上に大きい。戦中戦後の食糧難を知る私は、コオロギやミドリムシを食することの無いよう? 少なくとも主食の穀類の自給率は出来るだけ高く保つべきだと思うし、国民はそのための費用を惜しむべきではないと思う。何しろ世界人口は今後も増加し続けるのだから。

現在の米価が外国の何倍もするのは事実だが、それでも農業従事者の平均年齢が60歳台ということは他産業と比べて農業所得が少ないことが大きいだろう。現在の消費者にとって生計費中の主食の比重は昔と比較にならないほど低い。それを当然と考えて食料安全保障を軽く見てはならないと思う。