2023年2月28日火曜日

「新たなキューバ危機」

  今朝のNHKのテレビニュースで最近のキューバの状況を、「人口流失300万人 新たなキューバ危機」という見出しで放映していた。「新たなキューバ危機」とは1962年のキューバ・ミサイル危機をもじったタイトルであることは勿論だろう。番組は最近のキューバ情勢を紹介しており、興味深かった。

 第二次世界大戦後のキューバやカリブ海沿岸諸国は米国資本のもとプランテーション農業とも呼ばれた単一商品作物栽培(フルーツや砂糖キビなど)に集中し自国の経済発展を歪められていると左翼の批判を受けていた。それもあり、キューバのバティスタ独裁政権を武力で打倒した「カストロ革命」は当初は米国メディアの一部からも好意的に扱われた。しかし、新政権が旧政権の幹部らを死刑にしたり、米国を批判してソ連との結びつきを強めるにつれ両国関係は悪化した。その間、キューバは砂糖キビ単一栽培を是正しようとして失敗した。世界で最も砂糖キビ栽培に適した土地でのモノカルチャーは合理的だったのである。

 現在のキューバの政治体制への失望から米国へのキューバ人の亡命が絶えないとは聞いていた。番組では、かつては世界の強豪チームだったキューバ野球は選手が米国の高給に惹かれて亡命し今は見る影もないと伝えていた。米国のスポーツ選手の並外れた高給には私自身好感は持てないし、カストロ時代のキューバは医学教育に力を入れ、多くの医師が発展途上国の医療を助けたとも聞く。悪いことばかりではないと思いたいが、人口1100万人余りの国家からの300万人の流失は失敗国家と言うほかない。

2023年2月21日火曜日

戦争を終わらせる難しさ

  漫画家の松本零士氏が85歳で死去された。私は氏の『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』の原作を読んでいないし、テレビアニメも映画もおそらく見ていない。この機会にテレビで再演されたら是非見たい(欲張りめ!)。しかし、氏の経歴に父君が福岡県の太刀洗の陸軍飛行学校の教官だったとあり、変な言い方だが懐かしさを禁じ得なかった。

 戦前の日本の空軍力は陸軍と海軍にハッキリ分かれていた。したがってその養成機関も陸軍の太刀洗と海軍の霞ヶ浦に分かれていた。特攻隊の出撃基地として有名な知覧は実は陸軍のそれであり、海軍の出撃基地は大隈半島の鹿屋だった。

 霞ヶ浦基地は「海軍飛行予科練習生」(通称は予科練)の所在地としてその名は『若鷲の歌』(通称は『予科練の歌』)に残り、当時の小学生なら誰でも知りかつ歌った。それに対して太刀洗基地にも『特別幹部候補生の歌』(通称『特幹』の歌)があったが、戦後はほとんど忘れられ、よく歌った私も「.............風も鎮まる太刀洗 ああ特幹の太刀洗」とキレ切れにしか記憶しない」(ご記憶の方はぜひご教示を!)。

 歌に罪はないし、松本零士氏の父君も当時の帝国軍人として当然のことをしたまでだろう。それでも多数の教え子を死地に追いやったとの思いは戦後はきっとあったろう。あそこまで戦わなくともと現在の私たちは思うが、ウクライナ紛争も一年後も終わりそうにない。人間の業なのか。なお、神風特攻隊は当初は「しんぷう」と呼ばれたとのこと。

2023年2月17日金曜日

もう「サクラ咲く」

  午後テレビのスイッチを入れたら東京は未だ寒さ厳しいのに桜見物の場面が映ったので驚いた。河津桜の季節がもう始まっていたのである。私は4度ほど訪れているが車を停めて見られたのは2回だけ。土曜日曜は駐車困難なので河津川の対岸から眺めた。

 メディア的にはともかく、日本一の早咲き桜はやはり沖縄の八重岳(453米)であり、1月下旬から咲き始める。ここの特色は頂上まで通じている車道を登るにつれ早く咲いていること(普通は吉野山のように頂上に近いほど遅咲きである)。桜の開花は最も低温のときからの日数によるとは聞いてはいたが、経験してみると妙な感覚だった。

 桜花といっても人により種類の好みはあろう。私の好みを言えば染井吉野はもう少しピンクが強い方が良い。従って山桜をより好む。東北地方の山中に咲く紅山桜が一番のお気に入りだが、人目に立ちにくい場所で良くぞ咲いているとの同情がより美しく見せるのかも知れない。

 我が国の桜の美しさは早くから海外でも知られているようだが、交通機関の発達により来日してその美に直接触れる人が増加しつつあるのは何より喜ばしい。

2023年2月15日水曜日

 農業の工業化

 我が家から数キロ離れた多摩動物公園で鳥インフルエンザに罹った鳥が発見され、公園全体が休園となった。高齢の我が家は困らないが、休園が長びけば春休みにも及び、子供のいる家庭の中には失望するケースもあるだろう。

 動物園の鳥と違うが、採卵用の鶏の大量死が続いている。それも1箇所で100万羽を超える大量処分が発生しており、全国ではいまや1000万羽を超え、我が国の採卵鶏の1割に達するとのこと。その殺処分や拡大防止のための活動に必要とされる多大の労働量もさることながら、消費者としては鶏卵の値上がりが心配である。 

 こうした事態の発生により我々に明らかとなったのは「農業の工業化」とでも呼ぶべき事態である。鶏への給餌は勿論、卵も溝に転がり出るよう鶏舎が設計されている。そうでなければ一施設で何十万羽も飼える筈がない。鶏だけではない。牛の飼育農家の効率化も同様であり、搾乳も給餌も実情は工場に近い。そしてこちらは飼料の値上がりにより大きな打撃を受けている。

 病気による鶏卵の値上がりは我々は甘受するほかない。これに対して畜産農家の苦境はウクライナ戦争による飼料の不足や値上がりによる。「工業化」の意外な弱点である。戦争の愚かさの伝承が世代を越えることの難しさをあらためて感じさせられる。

2023年2月10日金曜日

「時代の正義」への違和感

 岸田首相の秘書官がLGBTの人との同席は気持ちが悪いといった主旨の発言をし、多様性を重視する内閣の方針に合わないとして罷免された。私はLGBTの人と同席した経験は無い(多分)が、テレビ出演者などでLGBTをウリにしている人にとくに違和感を感じないし、人それぞれと思う程度である。多様性の尊重は当然のことと考える。

 しかし、90年近い人生の中で私は「時代の正義」を幾度か見聞した。戦時中は「皇国日本」、戦後は「ソ連平和勢力論」や「反安保」。 ハンガリーやチェコスロバキアの自主性要求を戦車で葬った旧ソ連を現在平和愛好国だとは誰も言わないだろうし、今は野党といえども「安保廃棄」とは言わなくなった。私が多様性の尊重といえども他人に押し付ける気になれないのは、そうした「時代の正義」を叫んだ人たちの反省の弁を稀にしか聞かなかったためもある。

 もうひとつ私の気に入らないのはオフレコの記者会見での発言が明かされ、問題とされていることである。公式の記者会見ではどうしてもタテマエの開陳となりがちで、ホンネはオフレコで明かされるという場合も多いのでは。そしてそれが有益である場合も。 オフレコの約束が破られることは長い目で見ればメディアにとって自縄自縛にならないだろうか。信義の問題も軽くはあるまい。

2023年2月8日水曜日

メンフィスの官許?殺人事件

 先日、エルビス・プレスリーの故郷のテネシー州のメンフィスで交通違反の黒人が逃亡を図り警官に殴り殺された。殺した側の警官5人はすべて黒人だった。もし警官が白人だったらミネアポリスのジョージ・フロイド死亡事件時を上回る人種暴動となっていただろう。

 日本人に理解困難なのは今回の事件の発端が軽微な交通違反だったと伝えられていること。 たとえ逃亡を図ったとしても撲殺に値するほどの犯罪とは思えない。メンフィスが全米で五指に入る犯罪都市だとしても。そもそも犯罪に対する対抗暴力の許容度が日本とは比較にならないほど緩いと言わざるを得ない。

 書名は忘れたが亡くなった米国研究家の猿谷要氏の指摘に米国社会の暴力性があった。最近も米国の学校での銃による殺人事件が絶えない。それでも対抗策の強化は形だけとしか思えない。未だに銃で武装する権利を手放す気配がない。西部劇の時代ではないのに.............。広大な領土、複雑な人種構成、州権の残存など、我が国とは違いすぎる環境が個人による処罰が異常と思わない精神状態を残させているのだろう。

 最近、米国を含む外国への日本人の移住者が増加していると聞く。老齢の私などには理解できないが、安全だが周囲に気を使うことの少なくない我が国に若者が魅力を感じないのは自然なことなのか。ともあれその積極性は評価したい。

2023年2月6日月曜日

サーモンが環境問題になる時代

  朝のNHKのニュースで「世界的サーモン人気 産地チリで環境議論に」との話題を取りあげていた。養殖の鮭が「サーモン」と特別に区別して呼ばれ、寿司ダネとして利用されていることはむろん知っていた。天然の鮭には独自の寄生虫(細菌?)が潜んでいることも多く、いつからか生の鮭肉は敬遠され、養殖の「サーモン」に取って代わられた。

 南半球の鮭には元来そうした危険はないとのことで、半世紀ほど前から南米チリで大規模な鮭の養殖が始まり、最近30年間に30倍の生産額になって今や同国の第二の産業になっていた(第一は聞き漏らしたが、銅?)。ところが養殖があまりに大規模化し、養殖場の底に餌などがたまり不衛生なケースが増えたこと、養殖場の網を破って海に逃れた鮭が地元の魚を食べるため漁業者が被害を受けることなどで環境問題として問題化しているという。

 最近は観光地として日本の人気が高まり、「スシ」がその理由の一つとは聞いていた。チリにとっても新産業の発展は大歓迎だとばかり想像していたが、現地の政争も絡んでいるのかどうか、問題視されているとは.............。

  私も寿司は好きだし、本格的な寿司店以外にも簡単な寿司定食を提供するエキナカ店もでき、さらにスーパーではもっと手軽に入手できるようになって喜んでいた。寿司が世界の人たちに愛好されつつあると知り、愛国心をくすぐられていたのに.............。海中のプラスチックゴミも環境問題化しつつあるようだ。長生きすると聞きたくない話題が多くなる!

2023年2月5日日曜日

さっそく訂正!

 前回のブログの磯田道夫氏は道史氏の誤り。最近はこうした例にいとま無し!

富岡製糸場への道

 NHKのBS番組の『英雄たちの選択』シリーズは磯田道夫氏の軽妙な司会も楽しく、これまで半分近くは見ているが、1月25日は「ゼロから世界へ」というタイトルで徳川時代以来の我が国の生糸生産発展をテーマにしていた。
 私は日本経済史には素人なので生糸は日本古来の主要生産物と思ってきたが実は徳川中期までは海外からの輸入が主で、それの購入のため莫大な金銀が国外に流失していたという。そうした現状を新井白石が憂い、生糸生産の強化を唱えた。それに呼応した但馬の現養父市の上垣守国は西陣に上質生糸を納入する商人の身元を探り、東北の福島地方と知った。
 上垣は但馬地方の新知識独占を選ばず、『養蚕秘録』という著作で全国の養蚕業の進歩に多大の貢献をした。その結果、幕末までには日本産の生糸は世界から求められる輸出品となった。じつに日米開戦まで生糸は日本の輸出額の首位を譲ることはなかった(山本茂実『あゝ野麦峠』)。日本の工業化は製糸工女たちの作る生糸で支えられていたのである。
 番組の終わり近く、フランスの製糸技術を採り入れた富岡製糸場も紹介されていた。私も日本の産業遺産に指定後、学科の研修旅行で学生たちと訪れた。発足時にはじつに556人の工女たちが全国から集められ、誇りを持って働いたと番組で紹介されていた。当時としては負担の限界に近かったに相違ない金額で技術導入した明治政府の決断にはあらためて感じ入った。