2022年6月28日火曜日

ウクライナ侵攻は日本にとり幕末の浦賀沖の蒸気船? 

 岸田首相が参院選の最中、ドイツで開催のG7の会合に出席した。昨日の『日経』は「首相不在 異例の中盤戦」と報じているが、野党がなめられているとも言える。しかし、西側諸国から日本がウクライナ問題に関心が低いとみられることは、台湾問題などをひかえて絶対に避けなければならないと判断したのだろう。それは理解できる。

 他方、ロシアのウクライナ侵攻開始以来4ヶ月、我が国民の自国の安全への関心の高まりも無視できない。先週あたりの新聞各社やNHKの世論調査では日本国憲法の改正に対し賛成意見が反対意見を多少とも上回るようになった。この変化は最近半年間の新聞論調の変化の大きさにもうかがえる。

 昨年末に政府提出の新年度予算案が発表されたとき、『毎日』(12月28日)は「過去最大の防衛予算 歯止めなき膨張は許されぬ」と書き、同日の『東京新聞』は「防衛費過去最大 軍拡競争に加わるのか」と書いた。その「膨張」や「軍拡競争」とは防衛費が前年の1%から1.1%に増やす政府案への反応だった。同じ日の『東京』の『本音のコラム』に評論家の鎌田慧氏は「新しい軍国主義」と書いた。 2%への増加が目標として語られる現在とは隔世の感がある。

 とはいえ、日本国憲法はその改正が「世界一難しい」? ように作られた憲法である。仮に改正が実現するとしても数年はかかるだろう。しかし、中国による台湾圧迫がさらに激化したら?  未来を予測することは誰にも難しい。古人が「泰平の眠りを覚ます上喜撰 たった四盃で夜も寝られず」と書いたように。

2022年6月24日金曜日

アイスランドの銘酒をいただく

 先日の日曜日、ステファン駐日アイスランド大使に同国の銘酒を手づからいただいた。アルコール度47%のウイスキーは私の舌に余るが、ありがたく頂戴した。

 多摩市は今回のオリンピック・パラリンピックでアイスランドの選手たちのホストタウンを務めた。特別の関心はなかったので選手の人数も挙げた成績も知らない。しかし先月あたり、大使が御礼に参上するので式に参加希望者は申し込むようにとの広報があった。歩いて行ける施設での定員60名の会で申し込み期限を過ぎてから申し込んだら66人目で無理かとも言われたがダメもとと思い申し込んだら最後の一人に滑り込んだ(結局67人申し込み)。

 当日の通訳付きの大使のスピーチは最近の聴力減退で半分も聞き取れなかったが、同国紹介の映画もあり一応満足した。最後に大使館からのお礼の数種の品の抽選があり、何と私は同国の最高の品のウイスキーに唯1人選ばれた。手渡された際、30年前に御国を訪ねたことを何故か言いそびれた。大使はむしろ喜んでくれたろうにと事後に後悔した。羊のふんで燻すというウイスキーをせめて分け合って飲む機会があればと思う。


2022年6月21日火曜日

開成学園の思い出

  たった二年間専任教諭を務めただけの私に、ある時期から毎年の今ごろに『開成会学報』が送られてくる。内容に特別の興味は無いのでこれまで目を通さなかったが、今年は学園創立150年記念号というので20名余りの有名卒業生が思い出を寄稿している。それでも総理の岸田文雄氏とクイズプレーヤーの伊沢拓司氏以外は読んでいない。しかし本号には英語科教員だったSさんへの追悼記が4篇載っているので読んだ(その一人のH君は私の教え子)。

 私の勤務時、Sさんは学年主任だった。温厚な人柄で誰からも親しまれていたが、今回初めて私より数年年長なだけと知って驚いた。同校では各教科とも同じ教員が卒業まで担当するので、この年度の東大合格者数が大きく伸びたのはSさんの力が大きかったと思う(新米の私は足の引っ張り役だった!)。

 ところでH君がたった一行だが私の名前を出しているので驚いた。「平瀬先生は授業をつぶしてソフトボールなどという名物めいたものもあったが、島村先生についてはそのような記憶がない」というもので、知らない人が読めば困った教師としての私に言及しと受け取るだろうが、私は最高の賛辞と受け取っている。なぜなら彼の属した2組 (担任は別人)には特別の思い出があるから。

 世界史(開成では2年間教える)の4クラス(人文地理が2クラス)のうちこのクラス(2組)には私が一年半顧問を務めた山岳部の部員が3名いたので、授業以外でも私が開成のため汗をかいていると思われたのか、数人で連れ立って埼玉の1DKの公団住宅を2回訪ねてきた。ところが後に検事総長を務めた男を中心に冗談を言ってはゲラゲラ笑い合って帰ったので、家内はあの人たち何しに来たのと不思議がった。生徒は有益な話を聞くため先生宅を訪れるものと思ったのである。のちに検事総長就任を機にこのクラス仲間数人が『文春』の『同級生交歓』に写真出演した。そのうちの二人が師に先立って永眠したのが悔しい。

2022年6月18日土曜日

日韓関係の改善の好機会

  東京新聞(6月16日)のコラム『筆洗』(朝日新聞の『天声人語』にあたる)によると、デンマークとカナダの間で多年にわたり係争点となっていた前者のグリーンランド島と後者のエルズミア島の間の無人のハンス島が、両国間で分割する事で解決を見た件を取り上げている。領土帰属問題となると双方が冷静さを失うケースが圧倒的に多いのに、このケースはこれまで「世界一友好的な戦争」と呼ばれ、今回一滴の血も流す事なく解決したという。もともと自然条件の厳しい北極圏の小島だったことが解決に貢献したことは言うまでもないが、尖閣列島も竹島も無人島で、後者は飲料水にも事欠く筈。それが2国間関係のトゲとなっているのはどう見ても賢明ではない。

 私は尖閣列島と竹島について歴史的経緯に詳しい訳ではない。前者については戦後は米軍の管理下にあったということなので日本の主張に歩があるのだろうと思う程度だし、竹島の歴史に関してはそれ以上に無知である。しかし、竹島を日本領と正式に主張したのは日露戦争の勝利後と聞くので、韓国の主張に根拠が皆無とも思えない。思うに日韓両国の間でその時の力関係によって帰属が変わってきたのではないか。

 いずれにせよ水資源もない岩山の竹島を奪い合うのは愚かだし、漁業資源が目当てなら両国間で漁場を分割すればよい。韓国の新政権は日韓両国関係の改善を目指している。「慰安婦問題」など他にも解決困難な事案もあるが、領土問題という最もセンシティブな問題で妥協できれば他の懸案にも好影響をもたらすだろう。両国とも孫子の代まで対立を引きずって良いはずがない。

2022年6月13日月曜日

自由と規律

  高校の世界史の授業で必ず習う名辞に英国の思想家ホッブズの「万人の万人に対する闘争」がある。似た言葉に「homo homini lupus  人は人に対し狼」があり、私は長年ホッブズの言葉と記憶していたが、ローマの喜劇詩人の言葉と最近知った。語義は説明不要だろう。人類はそうした自然状態を脱するため社会契約を結ぶ。

 昨日の毎日新聞の書評ページにマシュ・ヘトリンクという著者の『リバタリアンが社会実験してみた町の話』の小川さやか氏の書評が載っていた( 私は原著を読んでいない)。 それによると米国のニューハンプシャー州のグラフトンという町に最近多数のリバタリアン(絶対自由主義者)が移住してきた。あらゆる束縛を否定する彼らは賭博の権利、麻薬売買の権利、決闘する権利などを主張する。なかでも問題なのはこの町に多数出没する熊たちへの対策(本書の原題は『リバタリアン 熊に遭う』とか)。家畜や猫を襲う熊たちへの対策として、「生ごみなどの管理や土地区画規制に従うのも、熊対策に税を払うのも嫌う彼ら.......。銃をぶっ放す権利対熊にせっせと餌やりをする動物愛護者もいる」。

 戦後間もなく岩波新書に池田潔慶大教授の『自由と規律』が発表され、英国の名門パブリックスクールの厳しい規律が紹介され、自由主義の母国とばかり思っていた英国の教育が驚きをもって迎えられた。自由と規律は両立不可能ではない。


2022年6月10日金曜日

訂正 

 前回に「悪評ぷんぷん」とあるのは「悪評ふんぷん」の誤り。打ち間違え!

2022年6月9日木曜日

ウクライナ・ロシア間の早期停戦は両国の利益なのだが...........

 ウクライナではロシア軍が苦戦しながらも占領地を広げつつあるようだ。ロシアも今ではウクライナ全土の占領は不可能と覚っただろうからアゾフ海沿岸とクリミア半島確保で停戦に応ずるだろうが、ウクライナのゼレンスキー大統領がそれに応ずるだろうか。戦争は長期化で犠牲が拡大するほど停戦受諾は困難になるだろう。

 かつて君主国間の争いは国民の意思を顧慮することなく君主の意思で開始され終了した。しかし、第一次大戦中、英米を中心に「秘密外交の廃止」が叫ばれるに至り、停戦決定も講和条約の確定も容易ではなくなった。ヴェルサイユ条約のもとで敗戦国ドイツに要求された巨額の賠償金は「天文学的数字」と評され悪評ぷんぷんだが、米国の交渉団の一人は「全額回収が可能などと考えた者は一人もいなかった」と回想している。しかし、戦勝国民の怒りを鎮めるためにはとりあえず巨額を要求せざるを得なかったのである。それがやがてヒトラーの台頭を生んでも........。

 6月4日の『毎日』のコラム「オピニオン」欄に同紙の論説委員の伊藤智永氏は、「インターネット上ではウクライナ軍の戦争犯罪も確認されている。まして米国の異常な兵器の供給ぶりを見ると、ウクライナが米露代理戦争に命と国土を提供している実態は誰の目にも明らかではないか」と書いている。それも真実の一面ではあろう。ロシア兵にとっても戦争の実情は大きくは変わらないだろう。

 冷戦終了後、NATOの加盟国は15ヵ国から30ヵ国に増加し、ウクライナが加盟すれば31ヵ国目だった。これがアイスランドのレイキャビークとマルタ島でレーガンとゴルバチョフが握手したとき思い描いた世界だったろうか。ウクライナは憲法にNATO加盟をうたっていたと聞く。同国には第二次大戦後に中立国を選んだオーストリアを見習って欲しかった。

 それでも物事には両面があるフィンランドのNATO加盟はロシアに取り許し難いと映るだろう。しかし、ウクライナ軍の勇戦はロシアにフィンランド攻撃を躊躇させる効果を生むだろう。

2022年6月4日土曜日

「国恥地図」の示すもの

  昨夜のTBSの『報道1930』は「国恥地図が秘めた中国 '' 失われた帝国 ’’  習氏国家観の原点」と題され、中華民国初期つまり蒋介石政府が流布させた「国恥地図」と題された地図が主題。東アジアは日本やフィリピンといった島国を除いて、北は旧満州のさらに北のロシア極東地方から、南はインドシナ半島、西は西域諸国まで赤い曲線で囲まれた「中国」地図であった。中国が最大版図を誇った清国時代から後に失われた地域はすべて回復されるべき旧領土なのであり、習近平の「中国民族の偉大な復興」の中身は共産主義中国の独創ではなかった。それが中華思想というものか。近代の「国民国家」とは全く異質な国家観と言うほかない。

 我が国はこれまで文化的には中国の深い影響を受けてきたが、幸い海で隔てられ政治的には独立を保ってきた。しかし数年前、習近平が太平洋は米中二国を容れるに十分な広さがあると語ったと報ぜられた。ソロモン諸島など太平洋の島嶼国家群への中国の接近は、太平洋の東半分が米国の勢力圏なら西半分は中国の勢力圏であっても当然と考えた結果なのか。

 

2022年6月1日水曜日

理想主義者の陥る罠

  ロシアのウクライナ侵攻に関してロシア国民の政府支持は目立って減少していない。政府のプロパガンダに国民が「騙されている」との解釈は必ずしも正しくないことをロシア史専門の池田嘉郎氏が主張しているとのインタビュー記事(『朝日』5月30日夕刊)が伝えている。私も同感である。

 池田氏がソ連崩壊の1991年秋にモスクワで会った人の多くは「生活が苦しくなった」「老後が不安だ」と訴え、「昔のソ連へのノスタルジーを語り続け」たという。プーチンは彼らに救世主と映ったのである。池田氏は続けて「プーチンの台頭期と1917年ロシア革命におけるボルシェビキ(後の共産党)の権力奪取には共通点があります。社会の無秩序化で最も痛めつけられた『普通の人』こそが、社会に安定と規律をもたらすためには家父長的な強い権力が必要だと考え、それを求める点です」と指摘される。

 1917年と1990年代の共通性の指摘にも全く同感である。それはロシアの立憲民主派のひ弱さである。1917年3月にロシアで帝政が倒れ民主派が政権に就いたが、同年11月のボルシェビキの政権奪取までは大混乱期だった。従来は民主派が西欧との連帯を重視して大戦継続を追求したことが彼らの没落の理由として強調された。しかし、彼らが犯罪を厳しく取り締まらなかったため首都は犯罪者の天国となり、民衆がボルシェビキの剛腕に期待したことを重視する研究が30年前に発表されている(長谷川毅『ロシア革命下ペトログラードの市民生活』中公新書 1989)。1989年当時も経済の大混乱とともに治安が悪化した。今は亡き同年輩の知人でロシア史研究者のIさんは当時モスクワの街頭でギャングにホールドアップさせられた。1917年も1989年も西欧流の民主主義はロシアでは大衆に見放されたのである。その理想がどれほど高貴でも。