2019年6月12日水曜日

雨の歌

異常な寒暖の差の今年の春だったが、それでも6月の声を聞けば恒例の梅雨の季節がやって来た。庭木の中でも新しい小枝が多い梅の木はほおって置くとカビが若葉につくので、腰痛再発を危惧しながら今日何とか小枝切りを済ませた。

むかし、高校の国語教科書に永井荷風の「花より雨に」という文章が載っていた。4月ごろ、花々が庭を彩った頃から6月の梅雨の季節までの自家の庭の変化を綴ったもので、かれの高名な日記 ( 『断腸亭日乗』。 山本七平が荷風の全文学作品もこれに及ばないと評していた )からの転載だったのだろうか。庭に現われる季節の移ろいを仔細に描いていた。

その文中で荷風は、「巷に雨の降るごとく  我が心にも雨ぞふる」とフランスの詩人ヴェルレーヌの有名な詩の冒頭の一行を引用しており、梅雨時の庭の風情の描写をひきたてていた。荷風による全訳があるかは知らないが、その後、鈴木信太郎訳のフランス詩集に同氏の訳文を発見した。すでにご存知の方も多いとは思うが、秀逸な詩であり、秀逸な訳文だと思うので紹介したい。

都に雨の降るごとくわが心にも涙ふる   心の底ににじみ入るこの侘しさは何ならむ  大地に屋根に降りしきる雨のひびきのしめやかさ  うらさびわたる心にはおお雨の音 雨の歌 ( 以下略 )

梅雨空を名詩の名訳でしのいで欲しい。

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