むかし、高校の国語教科書に永井荷風の「花より雨に」という文章が載っていた。4月ごろ、花々が庭を彩った頃から6月の梅雨の季節までの自家の庭の変化を綴ったもので、かれの高名な日記 ( 『断腸亭日乗』。 山本七平が荷風の全文学作品もこれに及ばないと評していた )からの転載だったのだろうか。庭に現われる季節の移ろいを仔細に描いていた。
その文中で荷風は、「巷に雨の降るごとく 我が心にも雨ぞふる」とフランスの詩人ヴェルレーヌの有名な詩の冒頭の一行を引用しており、梅雨時の庭の風情の描写をひきたてていた。荷風による全訳があるかは知らないが、その後、鈴木信太郎訳のフランス詩集に同氏の訳文を発見した。すでにご存知の方も多いとは思うが、秀逸な詩であり、秀逸な訳文だと思うので紹介したい。
都に雨の降るごとくわが心にも涙ふる 心の底ににじみ入るこの侘しさは何ならむ 大地に屋根に降りしきる雨のひびきのしめやかさ うらさびわたる心にはおお雨の音 雨の歌 ( 以下略 )
梅雨空を名詩の名訳でしのいで欲しい。
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