2017年6月30日金曜日

トランシルヴァニアの今昔

6月27日放映のBSプレミアムの旅番組「一本の道  森のかなたの国をあるく  ルーマニア・トランシルヴァニア地方を歩く」を見た。NHKの女性アナウンサーが日本に一年間留学したルーマニア女性と同国の西半分のトランシルヴァニア地方をトレッキングする番組で、アナウンサーは九年前?に黒海に面したドナウデルタ ( イヴァノヴィチの『ドナウ川のさざなみ』の故地 ) を訪れたことがあるとか。

伝説の吸血鬼ドラキュラの城のあるトランシルヴァニア地方は中世以来ルーマニアとハンガリーとの係争地であり、ハンガリーは同地をオスマントルコの侵入から防衛するためザクセン人 ( ドレスデンやライプツィヒのある ) を多く住まわせた。女性二人はドラキュラの城と共に幾つかのザクセン人の城や町を訪ねる。最後の訪問地ブラショフにはザクセン人が建てた大聖堂があり、たった一人のドイツ人司祭が守っていた。

トランシルヴァニア地方は第一次大戦でハンガリーが敗れてルーマニア領となったが、同地のドイツ人は第二次大戦後追放されて難民としてドイツに帰った。そのためドイツ人が稀なのである。司祭を含めて誰もそのことに言及しなかった。古傷に触れたくないのはいずこも同じである。アナウンサー氏はどこまで知っていたか?

むかし、トランシルヴァニアの歴史を専攻したいとの女子の大学院生を指導したことがあった。ハンガリー支配に対するルーマニア人の民族的抵抗運動を論文のテーマとしたので専門研究者の助力を仰いだが、英語の関係論文ぐらいは一緒に読んだ。そのためブラショフをはじめ幾つかの都市名は私も覚えていた。学生はその後同級生と二人でルーマニア旅行をしたが、チャウシェスク独裁の時代で電力不足のため夜行列車に灯火はなく、本当に恐ろしかったと聞いた。心から同情したが、ハンガリーに対するルーマニア人の文化的抵抗を研究した彼女が、抑圧者ハンガリーの首都ブタペストに着くまで生きた心地がしなかったと聞くとおかしくもあった。最悪の時期のルーマニアではあったが、ブタペストはヨーロッパで最初に地下鉄を持った文化都市だった。

2017年6月28日水曜日

大臣の失言

このところ与党政治家の失言が豊作?である。むろん昔から政治家の失言放言の類いは少なくなかったが、大臣ともなれば資質を問われかねない。

政治家の失言にも大別して二種類あると思う。一つは、聴衆のウケをねらい笑いをとることが目的の場合で、とりわけ支持者の集会でなされる。典型的なのは森喜朗元首相の「日本は神の国........」発言で、メディアで問題視された。もともと失言癖が目立った森氏で、なかにはものを知らないことを露呈したまでの場合もあったようだ。しかし戦前ならともかく今どき日本が神の国だと本気で考えている人はほとんどおるまい。ウケ狙いだったと考えてよかろう。

名前を忘れたが、被災地訪問に際して長靴の用意がなく、水たまりを背負われて渡りメディアに批判された上、自派の集会で長靴の業界が潤っただろうと放言して叩かれた大臣?がいた。背負われた姿はあまり見よくはなかったが、私はこれは秘書ら周囲の配慮が足りなかったことが原因で、そもそも批判されるほどのこととは思わないし、集会発言は品のないジョークだが笑いをとるための発言にそれほど目くじらたてることもないと思う。

もう一種の失言はそもそもものごとの軽重をわきまえず大臣としての資質にもかかわるケースで、稲田防衛大臣の発言はこれに当たるだろう。氏は以前にも南スーダン情勢に関して「戦闘」ては国会で問題とされるので「衝突」と述べると発言し私を驚かした。そこにはジョークの要素は皆無で、これではサギをカラスと言いくるめますと言うに等しい。とても大臣の答弁とは思えなかった。

今回の都議選中の発言も自衛隊にとっては迷惑そのものであり、これが法学部出身者の言かと驚く。一度ならず二度までもとなるととても大臣の資質があるとは思えない。こうした資質に欠ける政治家を引き立ててきた安倍首相の見識が問われる。情けない閣僚の一語に尽きる。

2017年6月26日月曜日

ダーウィン・クロポトキン・オーウェル

日曜夜の「ダーウィンが来た!」は主に動物の生態を紹介する番組で私は見たり見なかったりだが、昨夜は「衝撃! 毒蛇マムシ狩り  里山の最強昆虫タガメ」とのタイトルに惹かれて見た。

半信半疑だったが内容はタイトル通りだった。全長数センチの水中昆虫のタガメが先ず蛙を捕食するシーンがあり、ついでドジョウと格闘するシーンがあった。後者だけでも結構スリリングだったが、本当にマムシを捕食するシーンには驚きあきれた。何しろ約十倍の全長を持つ相手である。待ち構えるタガメはマムシの首の部分に取り付いて、それを振りほどそうと相手がどれだけ暴れても離さない。ごく最近知られた生態とのことだが、水槽の中ででも撮影したのだろうか。

「ダーウィンが来た!」以外にも近年野生動物を紹介する番組はよくあるが、それを見て痛感するのは動物界の弱肉強食の姿である。肉食動物なら生きるためそうせざるを得ないのは当然だが、そうした生存競争をみていると進化論の「適者生存」、「自然淘汰」の意味が納得できる。

しかし、それに対しては反論もある。帝政ロシアの公爵にして地理学者、アナーキズム理論家として知られるピョートル・クロポトキンの『相互扶助論』( 1904年 )は、自然界の進化は生存競争の結果ではなく相互扶助によってなされたと説いた。私自身読んでいないので誤解の可能性はあるが、ダーウィンの発見がそれによって大いに揺らいだとは聞かないし、動物界の弱肉強食の印象は否めない。

たかがテレビ番組を見て進化論の是非を云々するとはと言われそうだが、私はそうは思わない。真理は思想家の言説の中にだけあると考えるのは誤りである。プルードン、バクーニンと並ぶ三大アナーキズム理論家として知られ、その人格でも尊敬を集めたクロポトキンと雖もである。権力や政府の悪をえぐるアナーキズムに共感した作家のジョージ・ウドコック ( 『アナーキズム』1968年 紀伊国屋書店 ) も、「世論は、群れをなした動物たちの間の画一性へと向かう恐ろしい衝動のために、どんな法律体系よりも寛容ではない」とのジョージ・オーウェルの言葉を紹介して、「隣人の渋面が判事の判決と同じように恐ろしいものと化すといったことについて十分考慮したアナーキストはほとんどいない」と警告している ( 村落社会に住む人にとっては「判事の判決」よりも村八分の方が恐ろしいこともあり得る ) 。最近の政情にからんでオーウェルの『1984年』が我が国で顧みられているとのことだが、オーウェルの真意はそれほど底が浅くはない。

2017年6月21日水曜日

予測の難しさ

今年のプロ野球のセ・パ交流戦が終わった。例年よりもセ・リーグの各チームが善戦したが、結果としてはパ・リーグ優勢を覆すには至らなかった。その理由はともかく制度発足時、私は交流戦を導入すればこれ迄の投打の記録との比較は困難になると考え導入に反対だったが、現在は試合内容が多彩となり大成功だったと認める。将来を見通すことはかくも難しい!

米国のプロ野球への日本人選手の挑戦は野茂やイチローの活躍など、米国人に日本野球の実力を知らしめ、私も多少は誇らしい気持ちになった。しかし、最近のように多くの選手がメジャーリーグを目指すようになると日本のプロ野球は米国のマイナーリーグになりかねない。職業選択の自由は認めなければならないが、日本プロ野球機構はどこまで現在の姿を予測していただろうか。

ロンドンで白人運転の車がモスク帰りのイスラム教徒たちを襲い、死者一名を含む多数の負傷者を出した。イスラム過激派のテロがひっきり無しのヨーロッパでは白人側の仕返しのヘイトクライム
は避けられないと予想していたが、相手の手口をそっくり真似た車利用のテロは思いも寄らなかった。しかし、ことが起こってみれば予想しなかったのが不思議に思えてくる。そもそも言語、宗教、生活習慣など文化面の相違の重要性を軽視して、労働力として中近東やパキスタンからの移民を利用した経済界の予測の誤りがすべての出発点だった。

我々は東日本大震災で自然現象への予測能力の不足を知らされた。社会現象への我々の予測能力も大して信頼できないと覚悟した方が良いのだろう。

PS.   前回のブログで松村健三氏としたのは松村謙三の転換ミスでした。


2017年6月16日金曜日

大田昌秀の生と死

大田昌秀元沖縄県知事が亡くなった。学徒兵として戦争に巻き込まれ多くの学友を失い、戦後は基地問題で本土人の無関心と闘った氏の生涯は沖縄の苦難を一身に体現していたと言って良い。私個人としては氏が「平和の礎」を建立し、日米の死者を分け隔てなく慰霊したことが記憶に残る。ご冥福を祈る。

しかし、私の購読する新聞の社説 ( 6月14日 ) が、「かつての政府与党には沖縄に心を寄せる政治家が少なからずいた」と述べるのにはまたかとげんなりした。当時、それらの政治家の沖縄に寄せる心を紙上で読んだ記憶がないからである。メディアは良心的与党政治家を、彼らが死んだり政権の中枢から離れたり反主流派になったりするまで、ひたすら派閥まみれの政治家として描いていた。

話は古くなるが、吉田茂内閣末期の新聞の首相批判は激烈だったが、其の後いくばくもなく彼は新聞に「大磯の賢人」扱いされるようになり私は驚いた。自民党総裁選で岸信介氏に対抗した反主流の松村健三氏はにわかに立派な政治家と紹介され ( 事実そうだったが ) 、私は自民党に立派な人がいると初めて知らされた。沖縄に関しては小渕恵三元首相も野中広務元幹事長も「沖縄に心を寄せる政治家」だったが、生前の彼らは前者は無教養の政治家と揶揄され、後者はその剛腕ぶりばかりが報道され、兵士体験に基ずく彼の平和への思いは報道されなかった。

人の評価は「棺を蓋って定まる」は真理かもしれないが、それでは寂しすぎる。真の評価は歴史家の仕事でジャーナリズムに期待すべきではないのだろうか。そんな筈はないが、そう思いたくなる。そうとすれば、大田昌秀氏は生前に正当に評価された幸福な人だったとも言える。

2017年6月11日日曜日

退位特例法の成立

現天皇の退位特例法が成立した。何しろ退席した自由党以外は自民党から共産党までの全政党が賛同したのだから去年の天皇発言の効果は絶大だった。両陛下のこれまでの国民 ( とくに災害の被害者 )への深い配慮が国民の支持を生んだといってよかろう。

しかし、このほぼ全政党が賛成した特例法に強い不満を表明した人がいた。現天皇その人である。「陛下、政府に不満」との見出しの毎日新聞 (5月21日) の記事は天皇が「強い不満をもらされたことが明らかになった」として、「一代限りでは自分のわがままと思われるのでよくない。制度化でなければならない」との天皇の思いを報じている。天皇が直接にメディアに語ったとは考えられないから、宮内庁の高官が陛下の意向を代弁したのだろう。記事は続けて「天皇は祈っているだけでよい」などと有識者会議での「ヒヤリングで批判されたことがショックだった」との陛下の強い不満を紹介している。

私はあれほど国民に寄り添おうとした陛下が感情的に反発したことは分からぬではないし、「祈っているだけでよい」とは失礼だと思う。しかし、「象徴」というどうにでも解釈できる言葉の自己流解釈を盾に、摂政でもいけない、特例法による退位でもいけないと反発するのは「自分のわがままと思われ」ても仕方が無いのでは?  天皇が政治的実権を失っていた200年前の光格天皇の退位の決着に二年半かかったと聞く。天皇問題となると右も左もむやみに非妥協的になる現状を見れば、特例法による解決はベストではないにしても無用な対立を避けるベターな解決法だったのではないか。

私は『毎日』の記事のあと、他のメディアとくに新聞各紙がどう報道するかと注意していたが、管見の限りではどのメディアも全く言及しなかった ( 『赤旗』には目を通していないが!) 。同情に値するとはいえ歴然たる天皇の政治的介入を見過ごしてよいとは不思議である。菊の御紋に深入りしないことが何より大切ということだろうか。

2017年6月8日木曜日

緑の魔境 ( 続 )

昨日、某生命保険の社員が拙宅を訪ねてきた。私や家内が死んだ時の手続きを簡素化するためとの事だったが、我が家の狭い庭を見て羨ましいとのたもうた。庭のあることの煩わしさを知らないのはマンションか公団住宅の住人なのだろうか?

先日、何気無しに椿の木に視線がいったら茶毒蛾が葉にべったり付いているのに気がついた。早く気づいたせいか例年より駆除はずっと容易だったが、一匹でも見残しがないよう気は使った。柿の木は初冬に上方の枝を命がけ?で切り、いっときは切り過ぎたかと思ったが、春になったら猛然と葉が出てきた。裏のタラノキはこれ以上大きくなると電線に近ずくので最初の芽を二回食したのちも、新しい若芽 ( もう最初から枝の形をしている ) を四、五回除いたが、まだ相手は断念する気配がない。植物の生命力には脱帽する他ない。

植物だけではない。半月ほど前、外出から帰ってきたら、隣家が呼んだペンキ職人が我が家の前の道路でタヌキを見たと騒いでいた。そういえば以前の仇敵の野良猫をこの頃見かけないのに台所ゴミを庭に埋めると翌朝必ず掘り返されるので不思議だったが、タヌキだったとは..........。その後家内が聞いてきたところでは、タヌキやアナグマを見かけるのはこの住宅地では珍しくないとのこと。多摩市は何しろジブリ映画『平成狸合戦ポンポコ』の舞台で住民の方が侵入者なのだが、それにしても...........。半世紀も生き続けるのは、雑食性のタヌキにとって住宅地は案外住み良いのかもしれない。「自然との共生」は良いことばかりではないことを知って欲しい!

2017年6月2日金曜日

北朝鮮のミサイル実験

北朝鮮が狂ったようにミサイル実験を繰り返している。先日は同国のミサイル発射の報道を受けて東京メトロが地下鉄の運行を一時差し止めた。韓国の一部メディアが日本の過剰反応と笑った ( 怒った?)という。放射能汚染の危険を理由に我が国の10県の水産物を輸入禁止している韓国に日本の過剰反応を批判する資格があるとは思わないが、地上の鉄道より安全な地下鉄が運行を停止したのは私も過剰反応だと思う。

独裁国家はいつの時代でも自国の軍事力を誇張する( ソ連もそうだった ) が、それでも北朝鮮のミサイルや核兵器の技術開発の進行はわが国にとって重大な脅威であることは間違いない。たとえ現在の一連の実験が米国を一対一の交渉に誘うための手段だとしても、その後の交渉で北朝鮮が核放棄に同意するとは考えられない。これ迄の巨額の開発費の手前もあるが、相手に自国の要求を認めさせる手段として核兵器ほど有力なものはないから。

北朝鮮の核の脅威を取り除くためどんな手段にも訴える用意があるとのトランプ大統領の発言は重大である。北朝鮮がワシントン攻撃用のICBMのボタンをいつでも押すことができるという事態を果たして米国は許容するだろうか。トランプ大統領が北朝鮮への中国の働きかけを最重要視するのは自然である。これに対し中国は公式には「双方の対話を」などとこれまで効果のなかった提言を繰り返している。それは表面だけのことで、裏面では中国は北朝鮮に強い圧力をかけていると思いたい。もし中国の圧力が効果を発揮すれば米国も代償として中国が反対するサード ( ミサイル防衛網 ) の撤収を決断すべきだろう。

P.S.    前回のブログを書いたとき、京都産業大?も獣医学部創設を希望していたのに加計学園だけが認められたのは公平でないと思っていた。しかし一校しか承認されなかったのは獣医師会の裏工作によるという。『産経』(6月1日)によれば、同会会長はメールマガジン「会長短信」で、「粘り強い要請活動が実り、関係大臣のご理解を得て、何とか『一校限り』と修正された」と、ロビー活動の「成果」を強調していたという。同日の『読売』に岸博幸慶大教授のロング・インタビューが載っているが、それによると京産大の申請は一歩遅れていた。教授は前川前次官の真相暴露は規制撤廃に反対し既得権益を守ろうとした獣医師会と文科官僚の反撃と理解している。