撃墜の理由とされるロシア機のトルコ国境侵犯の事実はまだ不明というほかない。こうした場合、一般には侵犯が事実である可能性が高いだろう。しかし、ロシア機の落下地点がシリア領だったこと ( だからと言って侵犯無しと言い切れないが ) 、侵犯の証拠としてトルコ政府が公表したトルコ軍機の警告は「国境に近づいている」と再三警告しているが「国境を越えた」とは言っていないので、侵犯の証拠として十分とは言えない。他方、ロシアがイスラム国 ( IS )に対してよりもトルクメン人反政府派への攻撃に熱心だった事実も明らかになった。
国境を侵犯した航空機の撃墜事件と言えば旧ソ連時代のサハリン沖での大韓航空機撃墜事件が思い出される。私はソ連の参謀総長らがテレビ出演中あきらかに困惑していたこと、深夜に相手が民間航空機であることが分かったとは思えないことなどを考え、レーガン米大統領が口をきわめてソ連を攻撃したことに疑問を禁じ得なかった。しかし、米国は通信傍受 ( 自衛隊による? ) により戦闘機パイロットは目標が民間航空機と知っていたこと、それを報告したパイロットに対し上官が撃墜を許可したことを知った。そうであれば領空侵犯がかなりの時間続くと予想されたとしても撃墜は文明国の行動とは思われなかった ( それ以前に強制着陸を命じたケースもあったのに )。
今回のケースも仮にロシア機の領空侵犯が事実としても、報道によれば十数秒間の侵犯とのこと。相手は民間機ではないとはいえ旧ソ連と同様に荒っぽすぎるトルコの対応との印象は否めない。そのせいかトルコ大統領の発言には軟化の兆しもうかがえる。別の報道によればロシアとの会談でオランド仏大統領はロシアの攻撃目標をISに集中することを約束させたという。そうであればトルコ側の不満も大きく改善されることになる。遺憾の意を表明してもトルコの面目もある程度保たれることにならないだろうか。経済的にも有無相通じる両国の非難合戦は賢明ではない。