2024年3月24日日曜日

ケインズのヴェルサイユ条約批判

  昨23日の朝日新聞の土曜恒例の書評と新刊紹介のページに、J.M.ケインズの『新訳 平和の経済的帰結』の紹介がかなり大きく載っていた。ケインズと言えば戦後の一時期、「マルクスかケインズか」などとも評されたケインズ経済学の創始者であるが(並び称されるほどの人か素人の私には分からない)、本業で有名になる前に第一次世界大戦後のヴェルサイユ講和条約が復讐的で将来に禍根を残すと警告した本書で一躍有名になった。

 ヴェルサイユ条約の「不平等性」(とくに過大な賠償金)がナチスの興隆に大きく貢献したことは否定し難く、本書が先見の明を評価されたのは誤りではない。しかし、パリ講和会議に出席した米国代表団の一人は回想録で、「ドイツが賠償金を全額支払うなどと信じた者は一人もいなかった」と記している。それなのに過大な賠償金額を定めたのは、そうしなければ国民の怒りに戦勝国政府は耐えられなかったのである。

 フランスだけではない。大戦中に英国では労働党を中心に「外交の民主的統制」という主張が叫ばれ、力を得た。君主国といえども国民の意志にもっと縛られるべきだとの主張はむろん真っ当だが、君主や取り巻きの一存で講和条件を決めることの困難を倍化させた。さらにフランスではドイツ軍により北部を占領されていた間に国土は荒廃させられ(末期に退却するドイツ軍は炭鉱を破壊して去った)、全期間外国領で戦ったドイツが賠償金を支払わないなど考えられなかったのは無理もなかった。ケインズのベルサイユ条約批判は正論ではあったが状況が許さなかったのである。

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