地球温暖化の影響か、もう東京の桜は満開だ。それだけでなく林の木々も芽吹き始め美しい。この季節になると必ず思い出す人がいる。
30年近く前になるがソウル大学教授を定年後、私の勤務校の別のキャンパスで西洋史を教えていた韓国人の李さんは日本帝国時代に平壌に生まれた。氏を日本に呼んだ私の親友から、自分が一年間在外研究(ドイツ)するため気に掛けてくれと依頼された。とりあえず新宿の料理屋で、私の後輩の西洋史の同僚と李さんと顔合わせした。すると別の部屋で「平壌中学」出身者の会が開かれていたのでその旨告げたら「あれは日本人が入学する平壌中学です」と返されたのでちょっと気まずい思いをした。しかし李さんは親日家で、昔の日本人の恩師を新聞の「尋ね人欄」で探し出し再開した。しかし同じように日本人の恩師を慕ったと聞く金大中氏を嫌っていた。金日成時代の北朝鮮を肌で知る氏は金大中氏の政治姿勢が許せなかったのである。
前置きが長くなったが、日本語が達者な李さんも「山笑う」という表現は知らないというので新緑の奥多摩に案内して以来、日帰りドライブに何回も誘った。単身赴任の李さんはもちろん喜んで同行した。韓国にも是非とも来てほしいとの氏の願いに応ずるのは簡単ではなかったが、のち拒みがたくソウルで再会した。他に応募者がなかった韓国ツアーで各地を訪ね、「冬ソナ」のロケ地の南胎島など楽しかった。もう李さんも氏を日本に招いた親友もこの世の人ではないが、「山笑う」季節だけは変わりなく巡ってくる。
0 件のコメント:
コメントを投稿