2022年5月26日木曜日

観光産業の競争力1位の日本

  新聞やテレビに世界の観光産業のベストテンが発表されており、日本は初めて?1位となっている。昔人間には考えられない日本の躍進である。2位のアメリカはニューヨークをはじめグランドキャニオンやナイヤガラ瀑布やイエローストーン公園などスケールの大きさで人を驚かす観光地が少なくないし、10位にも入らない中国も万里の長城のような人工物以外にも西部にはヒマラヤに連なる5000メートル級の山々(ヒマラヤは中国領に数えたくない)や長江上流部の激流など見所は多い。

 それに対しかつて観光王国だった西欧諸国はスペイン3位、フランス4位、ドイツ5位、スイス6位、などはそれなりに頑張っているが、英国8位など昔日の面影はなく、イタリアに至っては都市国家シンガポール9位に続く10位(他にオーストラリアが7位)。この結果を知ったら日本のカジノ誘致派はそれ見たことかと勢いづけられるのではないか!

 日本が1位となったのは、以前にも言及した気がするが狭い国土に観光名所が集まっているからではないか。何年か前高尾山がミシュランガイドに載ったと聞くが、先進国の首都で都心から1時間余りで600メートルの山に達する国は珍しいだろう。

 料理なども含めた日本文化や治安の良さや物価安で我が国が認められてきたとすればよろこばしいが、文化というなら中国はどうか。私はかつて紹興の町で会稽山公園という看板を見かけ、呉越2国の争いにちなむ「会稽の恥をすすぐ」、「臥薪嘗胆」、「呉越同舟」などのことわざの起源はここかと妙に感じ入ったことがある。それなのに圏外とは欧米から見ると中国はまだまだ未知の国なのか?

2022年5月22日日曜日

敗者への待遇

  ウクライナのマリウポリが陥落した。捕虜となったウクライナ兵の数は諸説あるが千人を超えるようだ。ウクライナ側はロシア兵の捕虜との交換を要求しているようだが、ロシア兵の捕虜がそれほど多いとは思えない。それに加えて「アゾフ大隊」と呼ばれる内務省配下の部隊はロシア側がネオナチ呼ばわりする集団であり、ロシア側の苛烈な報復にさらされる事態が危惧される。

 そもそもロシアは帝政時代から少数民族に移住を強いたりしたようだが、第二次世界大戦中にクリミア半島を占領したドイツ軍に協力したとの理由で原住民のタタール人をシベリアに追放した事実は知られている(ソ連崩壊後に帰国)。 旧日本兵がシベリアや中央アジアに不法抑留されたことは日本人の知るところである。

 戦前や戦中の学校教育を受けた日本人なら、「旅順開城約成りて」に始まる唱歌『水師営の会見』を私を含めて全曲暗唱するものは稀ではないのでは。旅順要塞の降伏式典で敵将ステッセルに乃木将軍が特別に帯剣を許して厚遇しロシア軍の善戦を讃えたばかりか、のちロシア皇帝が死刑を命じたステッセルの助命を嘆願し認められたことは世界で賞賛された。現在の中国が同じ評価とは思えないが、会見所は立派に保存されていた。歌詞の中でステッセルが愛馬を乃木将軍に託したとあるが、年若い中国人ガイドは降伏すれば全資材は没収されるのが当然で、無意味だと注釈を加えた。なにぶん現在の旅順要塞にはあちこちに「国恥記念」の看板が立っていた。

 そのうちに水師営の会見など知らず関心もない邦人観光客が大多数になるだろう。その時に何か新しい話題をが必要になるだろうと思って宇田博の『北帰行』の歌詞とその由来をガイドに教えておいた。それを生かすかは彼しだいだが........。

 

2022年5月19日木曜日

北欧へのNATOの拡大は賢明か

 ロシアのウクライナ侵攻にうながされてフィンランドが70年ぶり、スウェーデンが200年ぶりに中立の立場を捨てNATO加盟を希望している。昨夕のどこかの局のニュース番組を見ていたら人口65万人の首都ヘルシンキは90万人分の地下シェルターを備えるという。スウェーデンは全人口の8割分の地下シェルターを備えるとか。永世中立国と誰もが知っているスイスでも、観光都市ルツェルンは市の人口以上の地下シェルターを備えると読んだ記憶がある。

 生活様式や居住形態の違いも影響しているとは思うが、我が国で地下シェルターを備えた家など大都市でも1割も無いだろう。最近我が国で仮想敵国のミサイルに対抗して敵基地攻撃野力を保有すべきとの議論が始まったが、反対論が強いようだ。しかし、反対論者も地下シェルターが周辺国を刺激するとまでは言えないはず。結局のところ日本人は困難を直視したがらない国民のようだ。

 フィンランドとスウェーデンが早急なNATO加盟を目指しているのはウクライナ侵攻でロシアにも余力がなくいまが好機と捉えているのだろうが、それでは冷戦時代の二大陣営の対立の再現となろう。米ソ冷戦時代のNATOの功績は多大だった。当時ソ連は口先では「革命の輸出」は目指さないとしていたが、共産主義を世界に拡大することを歴史的使命としていた。一方、現在のロシアが求めているのは大国の地位の承認(と安全)であって世界の共産化ではない。

 NATO加盟にはメンバーの一国でも反対すれば認められず、今のところトルコは反対を唱えている。現在のトルコのエルドアン政権は強権的で私は強い反発を抱いているが、この問題ではトルコの拒否権行使を期待したくなる。

 訂正  前々回に「壁際の魔術師」と書いたが「塀際の魔術師」の誤り。悪しからず。

2022年5月16日月曜日

「日本映画の名匠」ベストテン

   朝日新聞の土曜付録be(5月14日)に日本映画の監督の「読者のRanking」10人が載っている。1位から順に伊丹十三、黒澤明、小津安二郎、大林宣彦、市川崑、木下恵介、深作欣二、大島渚、森田芳光、新藤兼人。番外として現役監督では山田洋次が「圧倒的に」支持された。

 トップの伊丹十三は文中では『マルサの女』や『ミンボーの女』が挙げられているが、彼の名を一挙に世に知らしめたのは前作の「葬式』で、私もそちらを取る。彼の作品はどれも娯楽性満点だが、松竹や東宝といった大会社専属でない彼は全ての作品の人気に配慮しなければならなかったのだろう。黒澤明と小津安二郎は芸風こそ違え巨匠であることは疑いの余地なく、外国からの評価も高い。黒澤明の作品から一つを選べと言われれば『七人の侍』や『生きる』を挙げる人が多いだろうが、私は三船敏郎をスターにした『酔いどれ天使』を推す。志村喬の町医者が、嫌われ者のヤクザだが何処か見所のある三船を喧嘩をしながら正道に戻そうとするが、更生を前に抗争で犬猫のような無残な死を迎える。小津安二郎ならやはり『東京物語』か。

 私が学生時代から欠かさず見たのは木下恵介の作品群。『二十四の瞳』や名も無い灯台守夫婦の生涯を描いた『喜びも哀しみも幾歳月』のような国民的作品もあるが、日本最初の「天然色映画」の『カルメン故郷に帰る』も素晴らしく、後年、パリのホテル内の日本料理屋でフランスの青年と熱く語り合って(直前にテレビで上映)、チップを払い忘れた(本当にフランス語で? ウイ!)。他方、木下作品で妙に心に残るのは『惜春鳥』。 会津若松の5人の親友のグループのうちの一人(川津裕介)が卒業後東京に出るが、2年後帰郷する。仲間たちは喜んで彼を迎えるが、やがて彼は今では詐欺で追われる身だと知る。こうして彼らの青春は残酷な終わりを迎える。青春の美しさとはかなさを描いた作品である。


2022年5月13日金曜日

広島カープの誕生

  5月5日にNHKで放映された『鯉 昇れ』というドキュメンタリー番組を録画で見た。内容はプロ野球チームの広島カープの誕生秘話といったもので、2015年制作の再放映だった。

 1950年のカープの誕生時は高校生だった私は、一時プロ野球への関心が減退していたので記憶はほとんど無かった。番組によると同年急にセパ両リーグへの分裂が決まったので新球団の誕生は歓迎された(むしろ要請された?)。その機を逃すべからずということで地元出身で戦前タイガース監督を務めた石本秀一氏を監督に迎えて球団設立となった。しかし、資金は計画の三分の一しか集まらず、石本氏の苦労は並大抵では無かった。初年度の成績は41勝96敗でリーグ最下位だった。

 私がカープ誕生の経緯に関心を持ったのは第一に、同じ市の商業高校の長谷川忠平という好投手(で好青年!)がカープの「若きエース」となっていたこと。当時は甲子園出場は二県から一校だったので愛知県代表となったチームの長谷川はプロ野球界から注目されず、しばらく我が校の運動場で一人で練習していた。第二は中学生時代に鳴海球場( 中日球場はまだ無い)で見た巨人軍の名ショートの白石と、「壁際の魔術師」と謳われた名レフトの平山が出身地ではあるが新球団のカープに移籍した事情を知りたかったのである。結局、その3名を含めて選手の個々の事情は紹介されなかったが、ひたすら野球を続けたいとの願いから給料遅配にも夜行列車の三等座席での移動にも耐えた選手たちの野球愛は心を打つものがあった。

2022年5月5日木曜日

「基地負担は沖縄に」がヤマトンチューの本心?

 今朝の東京新聞に共同通信社が実施した全国世論調査の結果が報じられている。それによると沖縄の基地負担が不平等とする回答が、「どちらかといえば」を含めて79%に達するとのこと。それでは自分の地元への移設に賛成かというと反対は69%に達するという。

 沖縄県が米軍基地の存在のため陰に陽に苦労していることは日本人の誰もが知っている。しかも、本土復帰ののち米軍基地は減少するどころか本土の基地の一部が沖縄に移転したと聞く。沖縄県民がヤマトンチューに対して不信感を持って当然である。基地が必要というなら本土が大部分を引き受けるべきだと言われれば一言もない。

 2年ほど前、秋田県と山口県のイージスアショアの設置が地元の反対でつぶれた。秋田の場合はそもそも地形が建設不適地だったと聞くが、山口の場合はそうした問題は無く、迎撃ミサイルの残骸の被害が許せないということらしい。政府はイージスアショアを自衛艦搭載用に改良するということだが、艦船は四六時中洋上にいることはできないし、費用は倍増するとか。地元自治体の首長は基地の受け入れに同意すれば政治的に命取りになるのを恐れるのだろう。情けないことである。

 安全地帯からの気楽な首長批判との反論は必ずしも当たらない。市ヶ谷の防衛省には迎撃ミサイルが設置されていると聞くし、我が家から十数キロの福生市には在日米空軍司令部が置かれる横田基地がある。東京の西部は開戦となればミサイルの残骸が雨のように降るだろう。山口県が地盤の安倍元首相は地元説得に本気で努めたとも聞かない。安倍元総理は地元説得に動いただろうか。

 

2022年5月3日火曜日

師岡カリーマの西側諸国批判

  『東京新聞』の『本音のコラム』の定期執筆者であり在日エジプト人の師岡カリーマ氏が、 4月30日の同紙に1ページ半にわたり「戦争を避ける努力はなされたか ウクライナ侵攻に思う」と題した小文を寄せて欧米側を強く批判している(元来は岩波の月刊誌『世界』掲載論文を同誌の了解を得て短縮転載したもの)。

 長い寄稿文の内容は小見出しの「『自由』対『強権』 危うい単純化」、「安全な距離から感傷と独善に陥っていないか」、「プーチンの暴挙だが.......... 西側の外交的失敗も」からも推測されよう。本文中にも、「誰が加害者で誰が被害者か、白黒のつけやすさゆえに世界は自ら考えるという労を要さない安易な勧善懲悪の悦に浸かりすぎてはいないか」「気がつくと、いつもは大国同士の利害をめぐる複雑な対立構造を紐解いてみせるジャーナリズムがなりをひそめ」「NATOの東方拡大問題、プーチンの世界観と心理状態と計算、それらを把握しているはずなのに採られなかった戦争回避策」などなど。私はカリーマの主張に全面的に賛成ではないが、同感できるところはある。

 なぜ彼女は西側諸国批をこれほど厳しく批判するのか。 以下は私の推測だが、チュニジアに始まった「アラブの春」は結局はアラブ諸国を混乱に陥れた。混乱を免れたのはモロッコやヨルダンといった君主制諸国だった(それぞれが問題を抱えつつも)。カリーマの祖国エジプトも穏健な軍人独裁者に代わったのは偏狭な宗教独裁だった(人口の1割を占めるコプト教徒にとっては災厄でしかなかった)。ヨーロッパにもかつて「啓蒙専制君主」たちが並び立った時代があった。 それを忘れて西側諸国が一足飛びに専制批判を押し付けても良い結果は生まれないをカリーマは「アラブの春」の失敗から学んだのではないか。

 訂正 前回の「イールド・フランス」は「イール・ド・フランス」が正しい。