2022年2月26日土曜日

新左翼運動の盛衰

  浅間山荘事件50年をきっかけに新左翼への論評や回顧談が各紙に掲載されている。それぞれに興味深いが、まとまった紹介としては、池上彰・佐藤優の共著『激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960ー1972』(講談社現代新書 2021)が最上の解説書ではないか。著者たちの前著『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945ー1960』(同新書 2021)が戦後左翼の代表だった社会党と共産党を中心に書かれているのに対し、今回は両党にも言及するが副題通り新左翼運動の盛衰が叙述の中心となっている。

 すでに社会人となり報道で限られた事実を追うしかなかった私は、当時大学生だった著者たちに教えられること多大だった。大学を支配階級の下僕の養成期間と規定し、学生である自分を「自己否定」した新左翼の学生運動にいっとき多くの学生が心惹かれたことは理解できるし、彼らの大学と大学人糾弾には当たっている点も少なくなかった。しかし、左翼的言辞の深みにはまり他派を敵と見做して学生同士が殺し合う「内ゲバ」に至る。山岳アジトでの連合赤軍の同志リンチ殺人は私を含めて日本人を驚愕させたが、その頃大学構内で対立セクトに見つかった学生活動家が何人も虐殺された事実は本書で初めて知った。本人たちは真剣なのだから運動の「堕落」と呼ぶのははばかられるが、大学のキャンパスが安全で無くなっていたとは...........。

「日本人を『総ノンポリ』にした新左翼運動」との本書中の小見出しに反論できる人はいるだろうか? その負の影響の巨大さには圧倒される。

訂正 文中の養成期間は養成機関の誤り。悪しからず。

2022年2月25日金曜日

ウクライナ紛争の行きつく先は?

 ロシアとウクライナの紛争はとうとう本格的な戦争になってしまった。政治とは可能性の技術とも聞いているが、素人(俳優出身)のゼレンスキー・ウクライナ大統領にそれを期待するのは矢張り無理だったようだ。

 それにしても、ウクライナ大統領の軽率さもさることながら、それを煽ったとしか思えないバイデン米大統領やブリンケン国務長官の発言にはうんざりする。実際にとことんまでウクライナを支持する覚悟もないのにロシアの非をならしても、足元を見られるだけで何の効果もない。両人だけでなく米国の政治家には想像力不足に基づく相手国の立場への無理解がしばしば顔を出す。

 今朝の毎日新聞に「米世論 関与に消極的」との見出しで米CBSの世論調査が載っている。それによると「(バイデン)政権のロシア対応」への支持40%、支持しない60%。「米国の望まれる対応」として、ウクライナを支持すべき43%、関わるべきでない53%とのこと。近年のイラクやアフガニスタンへの介入の失敗にうんざりしている米国民は同盟国でもないウクライナのために血を流す気にはなれないのだろう。制裁も強力になればなるほどロシアよりも自分達を苦しめるだろう。こんな事を繰り返していたら民主党は国民に愛想を尽かされ、トランプ再登場となりかねない。

2022年2月19日土曜日

連合赤軍事件五十年

  今年は連合赤軍同志大量殺人事件と同派による浅間山荘占拠事件から50年と言うことで新聞に回顧記事が出始めており、今後も雑誌などが後に続くだろう。50年前に両事件が社会に与えた衝撃の大きさは当時を体験しない年齢の人たちには理解できないかもしれない。

 当初は、有名企業の山荘が連合赤軍を名乗る数人の革命家気取りの若者に占拠され、奪回作戦中に2人の警官と民間人1人が銃撃され死亡したという正にテレビ向きの事件で、国民の耳目を数日間釘付けにした。その後の逮捕者の取り調べで、それ以前に自称革命戦士たちは複数の山岳アジト(根拠地)で革命戦士の資格に欠けるとして12人の仲間をリンチ殺人していたことが判明し、世間を驚愕させた上にわが国の左翼運動の退潮の最大の?原因ともなったことは知られている。

 朝日新聞の特集(日付け未確認)は学者2人と山岳アジトで殺人に加担した植垣康博(懲役20年)の3人の小論だが、全二者の持って回ったような論に対し、獄中で血を吐く思いで反省したに違いない植垣の結論は、ソ連共産主義を克服したはずの新左翼の彼らがその前衛党理論を克服しておらず、組織の上位者に反対できなかったと明快であり、その結論は正しいと思う。

 今日の毎日新聞の広告欄に『ポルポトの悪夢』という書籍の広告が載っている(論創社)。それを見た瞬間にカンボジャのポルポト派と連合赤軍の共通性に初めて思い到った。ポルポト派による国民の大量虐殺をアジア的後進性に帰するのは必ずしも正しくない。ポルポト以外の同派の最高幹部たちはフランスに留学しサルトルらに心酔した者が少なくない。やはり、人民は先に真理に目覚めた前衛に従うべきだと考えた点で連合赤軍との共通性を感じざるを得ない。現在から見れば連合赤軍事件は前衛党理論の凋落の始まりだったとのではないか。

2022年2月15日火曜日

フランス極右の親ロシア的主張

  昼食後、テレビ朝日の「大下容子 ワイド!スクランブル」を見ていたら近づくフランス大統領選挙を話題にしていた。聞いていて意外だったのは、マクロン大統領再選に反対する二人の極右候補ルペン氏とゼムール氏が共に大国ロシアのプライドと安全要求を軽視してはならないと、私と同じ主張だったこと(私って極右なの?)。

 19世紀末からのフランスは新興のドイツ帝国に対抗するため伝統的に親ロシアだった。ロシアが共産主義国となりそうした伝統は薄れ、フランスはイギリスと手を結ばざるを得なかったが、第二次世界大戦の初期にドイツ軍の猛攻受けてフランス軍を見捨てて大陸から一時撤退した。イギリスにとってはやむを得なかったし、民間のボートまで動員した撤退作戦の成功は「ダンケルクの奇蹟」と国民的誇りとなったが(アカデミー作品賞の『ミニヴァー夫人』)、フランスにとっては盟邦に見捨てられた以外の何物でもなかった(ジャン・ポール・ベルモント主演の『ダンケルク』)。戦後のフランスが原爆保有に固執したのは大国の地位保持が主目的だったろうが、アングロサクソン不信がそれを強めていただろう。

 第一次大戦は小国セルビアの青年がオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子を暗殺したサラエボ事件が拡大して始まった。小国の国民が大国の国民より理性的平和的とは限らない。ウクライナのゼレンスキー現大統領が責任感のある指導者なら(私は懐疑的だが)、大国間の戦争の引き金となってほしくない。衝突の最初の犠牲者は自国民であることを別にしても........。

2022年2月14日月曜日

補足 戦時下の「徴用」の一端

 東京新聞(2月12日)に戦時中の北海道北部の雨竜ダム建設(幌加内町朱鞠内湖)の紹介記事があり、マイナス40度に達する低温と悪い食料事情により「日本人二百人、朝鮮半島出身者五十人が犠牲になった」とある。それぞれの総人数が分からないので比較は困難だが、戦時下の徴用労働としても最悪の部類ではないか。ウィキペディアによると、現場では3000人の「アジア人」が働き、1日あたり最大7000人が労働に従事したとのこと。国力が遠く及ばない戦争をした結果の惨状と言うべきだろう。

2022年2月13日日曜日

公共施設の建て替えへの疑問

 今朝の朝日新聞の「多摩」のページにわが多摩市の隣の町田市に関して「老朽の公共施設 一斉更新困難」「人口減の見通し抱え 郊外都市の将来は」との見出しの記事が載っている。当面の争点は市が団地内の築50年の図書館の建て替えを断念する方針なのに対し、住民の反対の声が挙げられているとのこと。私自身、複数の新聞を読むため多摩市の二つの図書館分室と隣の日野市の図書館を天候と曜日によって使い分けているので反対する人たちを支持したい。しかし、将来の人口減(東京の郊外でも!)を見越して改築を断念するとの町田市の方針も理解できる。

 さいわい多摩市では図書館整理は話題になっていないが、講演や演劇や音楽などの催しに利用されている「パルテノン多摩」という文化施設がやはり築50年を経て改築を計画中と聞く。御大層な名前だが、丘の上に立つ姿をそう名づけた気持ちも分からぬでもない。しかし、私自身非文化的人間なのか50年間に二、三度しか利用していない。

 なにより私が疑問に思うのは鉄筋コンクリートの堅牢な建物が同じ建築年数のプレファブの我が家より早く建て替えとなる不思議さである。我が国ではコンクリート建築の寿命は50年が基準とされると聞く。付帯設備の老朽化が理由の場合もあろうが、物理的にそれほど老朽化するとも思えない。同じ理由で民間のマンションも数十年で建て替えの運命なら国富の大変な無駄である。地震大国の我が国は石や煉瓦造りのヨーロッパ建築のようにはいかないとしても、それでは町村の木造の社寺にも劣る。本当にそうなのか。

2022年2月8日火曜日

戦時下の朝鮮人集落

  北京冬季オリンピックの開会式を丁寧に見てはいなかったので私自身の記憶は無いが、昨日の東京新聞によると中国代表団の入場に際し同国の56の少数民族の代表がそれぞれの民族服を着て行進した。ところが朝鮮族の代表がチマ・チョゴリを着用したのに対し、「韓国の主要な野党がそろって『文化の侵奪だ』と反発している」とのこと。中国政府の計算はともかく、同国内の朝鮮民族が民族衣装を着て登場することがなぜ怒りの原因となるのか、私の理解を超える。

 佐渡ヶ島の金鉱山跡の世界遺産申請に対し韓国が、同胞の強制労働の場との理由で反対している。伏線として数年前の長崎の「軍艦島」の炭坑の世界遺産認可に際し日本が強制労働の事実を明示するとの約束を守っていない事実があるとのこと。当時は日本人の成年男子も「徴用」の対象だったので、殊更に「強制労働」と呼ぶのはどうかとも思うが、地元が世界遺産指定を目指して明示の条件を呑んだのならそれを守るのは当然だろう。

 戦時中の疎開先で私は朝鮮人の同級生2人と同じ教室で学んだし、彼らの住居は学校の目の前のバラック建ての集落だった。2人は体格も良く気も強かったためかイジメの対象ではなかったが、敬して遠ざけるという感じはあった。したがって朝鮮人集落に立ち寄る同級生は居なかったが、私は都会からの転入生として似た立場だったので、同級生宅に立ち寄りたいへん歓迎された。住居もバラックとはいえ新しいので清潔な感じだった。しかし、男たちの仕事は工場建設のための土木工事で、日本人が就きたがらない仕事だったとは思う。

 私が知る朝鮮人集落の生活は働き盛りの人たちが中心のためか活気があった。しかし、佐渡金山での彼らの生活がどうだったかはなんとも言えない。同じだったと願うばかりである。

2022年2月2日水曜日

ロシア国民をプーチン支持に追い込むバイデン氏

  今から40年以上も前、私は旧ソ連のある行動に納得できず、同じ職場のロシア史が専門の今は亡き長老教授に対してソ連批判を口にした。ソ連共産主義に批判的な同氏は、当時の「進歩派」から「反ソ反共派」とそしられた研究者グループの有力メンバーだった。私は当然に同感の言葉を予想したが氏は、「いや、ロシア人の対外警戒心には理由がある」と古くはモンゴル人の侵入と支配の300年 (ロシアでは「タタールのくびき」と呼ぶ)からナポレオンやヒトラーの侵入などを例にその時のソ連の行動を弁護された。

 ウクライナをめぐるプーチンのロシアの行動を中世まで遡って弁護するのが正しいかは別として、現在のロシアを警戒の眼ばかりで見るバイデン政権には賛成できない。同じく強権政治と言っても複数政党が存在し国政選挙も行われるロシアと、中国や北朝鮮のように一党独裁で制度上も政府の上に共産党が存在する国と同一視するのは正しくない( 中国や北朝鮮へのバイデン政権の姿勢には私は賛成する)。ロシアが長大な国境で接するウクライナの動向を警戒するのは不当ではない。

 幸い? 同じNATO加盟国でもフランスとドイツは微妙にバイデン政権と距離を取り始めたようだ。フランスは冷戦時代に米国が推進する西ドイツ再軍備に抵抗した過去を持つ(それでもドゴール大統領はキューバ・ミサイル危機のような決定的瞬間には米国を躊躇なく支持した)。マクロン大統領も米露間の調停役というフランスの伝統的立ち位置を意識し始めたのか。バイデン政権の対露政策は客観的には国の安全はプーチンにしか頼れないとロシア国民に思わせる効果を生むだろう。