2020年2月22日土曜日

歴史的評価の難しさ

昨日 ( 2月21日 ) の東京新聞に、幕末の開国を強行した井伊直弼作の能狂言が29日に横浜の能楽堂で上演されるとあった。その記事によると直弼は「茶道、和歌、禅なども究めた」文化人だったという。

敗戦までのわが国では幕末の勤皇の志士たちが絶対の善であり、「安政の大獄」をおこなった井伊直弼は絶対の悪だった。当時は小学生の私でも吉田松陰の歌「かくすればかくなるものと知りながら、止むに止まれぬ大和魂 」や、「身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも、留め置かまし大和魂」( 辞世 ) に胸を熱くしたが、それは私だけではなかったろう。

戦後、井伊直弼の悪名を一変させたのは、大衆小説家舟橋聖一の『花の生涯』( 1953年 ) だった。直弼は本書により開国に一身を捧げた先覚者となった。人間とりわけ政治家の評価がいかに変わるかの好例だった。

今回の韓国映画『パラサイト』のアカデミー賞作品賞受賞にトランプ大統領がケチをつけた。彼は「韓国とは貿易分野で様々な問題を抱えている。その上、今年最高の映画 ( である作品賞 ) の栄誉を与えるのか」と不満を述べ、「1939年の『風と共に去りぬ』や脚本賞などの『サンセット大通り』を持ち出し、こういった作品が受賞すべきだと主張」した ( 『産経』2月22日 )。

これに対して『パラサイト』の米配給会社がツイッターで、「(  トランプ氏が作品を嫌いなのは ) 理解できる。彼は ( 英語の字幕を ) 読めないからね」とやり返したのは自由の国の面目躍如である。中国で同じことを習近平主席に言ったら国家指導者侮辱罪に問われるのでは? それとも国家誹謗罪?

P.S.  『サンセット大通り』は往年の大女優グロリア・スワンソンを起用してハリウッドの醜い内幕を描いた作品で、佳作ではあるが秀作ではなかった。ハリウッドは『イヴのすべて』など、自業界の歪みを描くのが好きである。

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