第二次世界大戦前に生を受けた日本人なら誰でも知っている唱歌の一つに『水師営の会見』がある。長く激しい攻防の末に陥落した旅順要塞戦の末に乃木将軍がロシアのステッセル将軍の降伏を受ける式典の様子を歌うバラード調の歌は相手への思いやりに満ちた歌詞(佐々木信綱)と哀調を帯びたメロディ(岡野貞二)が心に沁みる(乃木将軍の2人の息子はこの戦いで戦死)。もっとも、歌詞にあるステッセル将軍の愛馬を乃木将軍が貰い受けるエピソードを中国人の現地ガイドは、降伏すれば一切の所有物は相手国のものになるのにと馬鹿にした口調だった。日露両国が中国の土地を勝手にやりとりすることへの反発だったのか?
今夏に出版されたばかりの麻田雅文『日ソ戦争 帝国日本の最後の戦い』(中公新書)を入手して読んだ。1945年のソ連参戦後の満州や千島を舞台に日本人居留民や日本兵たちの苦難。それを強いたソ連軍の暴挙の数々はすでに多くの証言で明らかになっているが、豊富な資料に基づく本書は、倫理感覚を欠く独裁者のもとの国民の堕落の深刻さを明らかにしている。帝政のもと、ステッセルは最後まで戦わなかったとの理由で帰国後死刑判決を受けたがのちに禁錮十年に減刑され(乃木将軍の働きかけもあったとも聞くが真偽は不明)晩年は市井の人として生きたとのこと。スターリン独裁のもと、ロシア人は40年の間に逆に退化していた。
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