2023年9月6日水曜日

戦後左翼異聞

  今朝の『朝日新聞』にエッセイストの中野翠氏の連載コラムの第一回が、「世間知らずにあふれる正義感」との見出しで載っている。氏は私より13歳年下だが氏のこれまでのコラムはセンスにとみ面白く読むことが多かった。 氏は名門の浦和第一高女の「リベラルな左翼」の新聞部の顧問の影響を受けて図書室の『今日のソ連邦』という同国の宣伝誌の読者にもなり、その宣伝をそのまま信じていたという。 

 私が大学に入学した1952年はメーデー当日に警官隊とデモ隊が激しく衝突した「皇居前広場事件」の年で、大学は日本共産党に近い全学連が華やかな時代だった。 地方の高校出身の私が大学の学生寮に友人を訪ねたら「党が」「党が」と討論していて面食らった(党とは無論日本共産党のこと)。 その後は私も渋谷駅前の非合法集会?に参加して道玄坂の途中まで警官に追われた。

 しかし、私はそれ以上は左翼学生運動に参加しなかった。私の非実践的性格が一因だったのだろうが、入学後に高杉一郎氏の『極光のかげに シベリア俘虜記』(1950年 目黒書店。現在は岩波文庫)を読んでいたことも大きかった。著者はエスペランチストで小説家の宮本百合子(戦後出獄した宮本顕治の妻となる)ら「リベラルな左翼」のグループの仲間だった。

 しかし、戦後シベリアに抑留され、ソ連共産主義の実態を身をもって体験してそれを発表したのである。とうぜん既成左翼からの批判は激しかったようだ。のちの高杉氏によれば宮本百合子と旧交を温めていたら夫の賢治氏から「あゝゆうものを二度と書いたら許さないぞ」と宣告されたという。

 明日からの中野翠氏の連載が待たれる。

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