2023年8月7日月曜日

世界帝国の評価

  現在、塩野七生氏の『完全版 ローマ人への質問』(文春新書 2023)を途中まで読んでいる(読書スピードの低下を認めざるを得ない)。 氏の著作は半世紀ほど前にルネサンス期のフィレンツェを描いた『チェーザレ ボルジア あるいは優雅なる冷酷』を刊行時に読んだ程度だから久しぶりもいいところ。 

 氏が現代日本で推しも押されぬローマ史家であることは言うまでもない。好きでなければこれほど古代ローマについて書き続ける筈がないとは予想していたが、読んでみてその通りである。事実、あれほどの大帝国を築いたローマ人の政治的能力が非凡なことは当然だろう(詳細は同書で)。

 しかし、私が大学生の頃読んだJ. ネルーの『父が子に語る世界史』は古代ローマ帝国に極めて厳しかった。それは当時インド独立を目指して大英帝国と戦って入獄していたネルーの立場の反映でもあった。しかしそこにある偏りがあったことは否めない。同書でのロシア革命とその指導者たち(とくにトロツキー)への評価は絶賛と言っていい。しかしその後のソ連がどうなったかを考えればやはり過大評価、むしろ危険な評価だったと言うべきだろう。

 独立運動指導者としてのネルーは立派だし、戦争中に動物園の像を殺してしまった(空襲時に危険との理由)日本に最初の象を贈ってくれた恩人でもあった。戦後来日して大学で温顔を身近に見ることができたが、学部学生には氏の講演を聞くことはできなかった。

0 件のコメント:

コメントを投稿