2022年8月30日火曜日

緩衝材としての君主制

  最近、ミャンマーの軍事独裁政権はスーチー氏とともに軍部のクーデターに屈しなかった複数の民間政治家を処刑した。その横暴さには言葉もない。他方、現在のタイの政権もクーデターによる軍事独裁政権である。しかし文民政治家を処刑するといった蛮行には至っていないようだ。この二つの独裁政権の違いはそれぞれの国の歴史や国民性などさまざまな要素が絡んでいるだろうが、私は君主制の有無も大きいと考えている。

 ミャンマー軍による批判派の処刑は全く正当化できない。しかし、クーデターを起こした軍人たちは形勢が逆転すれば死刑を含む厳罰を免れられないことを知っているだろう。それに対して王室が一定の権威を持つタイでは、同じくクーデターにより権力を握った軍人たちは今後たとえ権力闘争に敗れても国王が仲裁者の役割を果たす可能性を期待できる。

 以前にこのブログで中東で政争が一定程度に保たれている国としてヨルダンとモロッコを挙げた。両国がその政治にどれほどの矛盾を抱えていても、悲惨な内乱は免れている。君主制の緩衝材的効用を見落とすことは賢明だろうか。イランもアフガニスタンも君主制を廃止してからそれを凌駕する宗教独裁の国に陥っている。

2022年8月24日水曜日

「フロント組織」の煙幕

  安倍元首相の銃撃死以来、自民党議員と旧統一教会 (現世界平和統一家族連合)との密接な協力関係が次々と報じられている。ついには過去の民主党政権時代の幹部たちの名前まで紙上に現れたが、『世界日報』などへの寄稿程度で、自民党の深入りとは同列には論じられない。しかし野党政治家といえども一見中立的なメディアへの寄稿を求めらたら深く考えずに応じてしまうのは無理もない。今回の場合、相手は文化団体をよそおったフロント組織で、相手の警戒心を封じたのである。

 フロント組織とは聞きなれない人が多いだろう。べつだん定義などないが、ある組織が本体への警戒心を解くために平和、民主、友愛など反対できない名の別組織を表に立てる時使う。起源は1930年代の左翼の人民戦線 (Popular Front, Front populaire )あたりか。しかし、その全盛時代は第二次世界大戦後で、ソ連の影響下に「平和」や「民主」を冠する文化組織 ( 音楽、演劇、科学などなど )が誕生し、世論を動かそうとした。大学生時代の私もそうした組織が主催するデモなどに参加したことはあるが、深入りはしなかった。私の性格もあるが、そのころ戦後シベリアに抑留された高杉一郎氏が執筆した『極光の陰に』を読んでいたので、ソ連共産主義が理想ではあり得ないと考えていたことが大きい。

 フロント組織は無論左翼の専売特許でも何でもないことを統一教会の例が示している。それにしても新聞を中心とするメディアは、霊感商法で統一教会の正体が暴かれて以来今日までまったく同組織へ沈黙を守ってきたのは不可解である。戦前戦中に新興宗教が政府に弾圧された歴史から、戦後は宗教団体への干渉がタブー視されたためもあろうが、それにしてもメディアはオウム真理教に次いで第二の怠慢を犯したと言っては言い過ぎだろうか。無数の山上徹也が苦しんでいたろうに.............。3

2022年8月17日水曜日

ロシア史研究者の意見対立

  ロシアによるウクライナ侵攻の評価をめぐってロシア史研究者の間で意見の対立があり、それが世代の違いとも関連していると何処からともなく伝わっていた。しかしメディアはこれまでどちらの側も批判したくないのか、ほとんど沈黙を守ってきたので、門外漢の私には世代差ということかと想像するしかなかった。今朝の毎日新聞の「即時停戦は正義か」との見出しのコラム『論点』で、両者の代表的見解を大筋だが知ることができた。

 旧世代(と言っても私よりは下)の代表は和田春樹東大名誉教授や冨田武成蹊大名誉教授で今回は富田氏が早期停戦と「ロシアに利益のない公正な講和」を呼びかける。毎日のように両軍の死者や民間人の被害を聞かされる我々も賛成したいが、ロシアが「利益のない公正な平和」を受け入れるかとの疑問は拭えない。この派の主張はクリミアや東部ニ州のロシア領化をやむを得ないと受け入れることにあるのだろう。総じてこの世代の主張には善悪二分論的なアングロサクソンの主張への不信があるようだ。

  これに対し若い世代の東野篤子筑波大教授は「ウクライナだけに決定権を」という立場で、戦争による国境の一方的変更を認めてはならないとの立場の延長と読める。

 もう1人、年齢的に中間(それで依頼された?)岩下明裕北大教授は旧世代の主張を「ウクライナの抵抗を否定すると受け止められかねない」表現は疑問だ」と批判する。しかし国力で上回るロシアがウクライナの主張 (ゼレンスキー大統領はクリミア回復まで停戦しないと主張)に簡単に譲歩するとは思えない。結果として戦争継続とならざるを得まい。

ナチスドイツへの譲歩が何の効果もなかったように、場合によっては莫大な人命の犠牲を甘受しても抵抗しなければならない時もある。しかし近年のウクライナ政権はNATO加盟要請はもちろん、人口の2割を占めるロシア系住民へのウクライナ語強制など侵攻原因の一端をつくったことは否めない。「自らの勢力圏に敏感な国の周辺国は、慎重すぎるぐらいでないと自国を守れない」(岩下明裕)のも国際政治の現実である。

2022年8月13日土曜日

地球環境保護先進国の苦悩

  地球環境保護の思想と運動は米国の女性科学者レイチェル・カールソンの『沈黙の春』あたりから始まるが、当初は化学薬品の多用による昆虫類の死滅が鳥も鳴かない春をもたらす( 一例だが)との警告だった。しかし、現在では過大なエネルギーの消費による気温の上昇がもたらす気候変動や海面上昇 (洋上の島国だけでなく先進国の大都市にも脅威)への対処に焦点が移ってきた。

 そうした地球環境保護運動で世界の先頭に立っているのがドイツであることは誰もが認めるだろう。東北大震災による原発事故に素早く反応して原発全廃への道を選んだことは我々日本人にも驚きだった。しかし、ロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁でドイツも少なくとも目標の先延ばしに追い込まれている。

 その発端が経済制裁に反発したロシアによる天然ガスの輸出制限である。ドイツは天然ガス供給の55%をロシアに依存していた。そのため世界に代替供給国を求めているが、他国との獲得競争になっている。そればかりではない。海外からの輸入は液化天然ガス ( LNG  )に転換して専用船で運ぶ必要がありパイプラインより割高になる。そのためドイツは最も炭素排出量の多い石炭火力発電も考慮しはじめた (以上『毎日』8.113)

 ウクライナ政府が制裁の中途半端さにどれほど不満を表明してもドイツも西側諸国も無策のまま自国経済への打撃を放置すれば国民の批判を浴び、内閣が持たないだろう。民主主義国家の苦しさであり、またそれほど世界経済は平和を前提として一体化しつつあったということだろう。「治にあって乱を忘れず」とはやはり名言だったようだ。

2022年8月8日月曜日

動物保護を何処まで徹底するか

  最近ヴィーガニズムとかヴィーガンという言葉が一部で使われ出したようだ(池上彰 佐藤優『漂流 日本左翼史1972〜2022』)。私もアニマルライト(動物の権利)が何を問題としているかは見当がついたが、数十年前に英国で生まれた完全菜食主義の名称は知らなかった。

 菜食主義者といえば誰でもベジタリアンを思い浮かべるが、実はベジタリアンには、1) 鶏卵までは許される、2)乳製品までは許される、 3) およそ動物が関係したものは蜂蜜まで禁止といった段階分けがこれまであったという。ヴィーガンは最も徹底した菜食主義者の称。

愛玩動物への虐待は聞くだにおぞましい。しかし人類は家畜はもちろんのこと、野獣や野鳥の肉を食べ、その毛皮を利用してきた。そして遂に最近ドイツでオスのひよこを殺してはならないという法律が出来たという。養鶏のため生まれるひよこの半数はオスである。メスと肉質の違いがあるのか、これ迄はどの国でもオスは殺処分され、動物園の動物のエサに利用されるのがせいぜいだった。

 ドイツの決定が他の諸国に追従されるかは分からないが、かなり根本的な問題を含む。ナチスが政権をとり多数の精神障害者を殺害した国だけに種の選別には特別に警戒的なのかもしれないが、私などジェノサイドを実践した国らしい徹底性を感じてしまう。事実、肉屋や実験動物を扱う研究所への襲撃が起こっているとか。 佐藤・池上の両氏が、かつての新左翼の視点に通ずるとヴィーガン的視点に一抹の危惧を感じているのも理解できる。合理主義だけで人間社会を裁断してはならないということだろう。

動物愛護を何処まで徹底するか

2022年8月6日土曜日

ペロシ訪台の評価

  米国のペロシ下院議長の訪台に賛否両論が寄せられている。ここでは以前に本ブログで紹介した佐藤優氏の「外交の三つの体系」に照らして考えてみよう。

 先ず「価値の体系」を基準に考えるとペロン訪台は民主主義と強権の対立の一方に強力に肩入れしており、台湾政府は大いに歓迎している。私をはじめ日本国民の大多数も台湾が香港と同じ運命を辿ることは何としても避けたいと思っているだろう。

 次に「利益の体系」を基準に考えると台湾と中国との経済にとって緊張の激化はマイナス要因である。どちらにとってよりマイナスかは何ともいえないが、常識的には小国に不利だろう。

次に「力の体系」で考えると両国の軍事力の差は圧倒的である。その差はこれまでは顕在化しなかった。しかし今後中国はその差を世界に見せつけようとするだろう。

 米中両国はかつてソ連への強い警戒心から米国は台湾が中国の一部であると認め、中国は当面は現状を承認するということで国交を回復した。曖昧さは両国にとって好都合だった。しかし中国がこれだけ強国化した以上、曖昧さの維持には米国側の最大限の配慮が必要だった。しかしペロシ訪台は中国の体面への配慮を欠いた。 米国政府は内心では思慮を欠いたことをしてくれたと思っているだろう。



2022年8月1日月曜日

プロ野球の名二塁手たち

  私はカレーライス好きではないが、例外はカツカレーで、選べるときはカツカレーを注文する。今朝の東京新聞に、カツカレーを発明?したのは戦前戦後に巨人軍の名二塁手として活躍した千葉茂で、現在も続く「銀座スイス」という洋食屋でのことだったとの記事が載っている。やがて同行する同僚選手たちも注文するようになり広まったという。

 戦前の活躍は知らないが戦後の数年間、千葉はファースト川上、ショート白石、サード山川らと巨人軍の内野守備陣を担当して名手と言われた。打撃も四番の川上の前を打つ三番で活躍し、その風貌と相まって猛牛とあだ名された。のちに新設球団の近鉄の監督を務めた。同球団や現在のオリックス球団の愛称バファローズはその名残である。

 その後の名二塁手たちは球場で見たことはない。活躍した時代順では西武球団の現監督の辻発彦が大柄な体格もあり、守備範囲の広さ、堅実さで鳴らした。他方、華麗な守備では中日の高木守道も忘れられないが、現在の広島カープの菊池涼介の二塁守備はプロ野球史上最高ではないか。小柄なのに打撃も見劣りしない。ぜひ、カープの菊池として選手生活を全うしてほしい。勝手な願いだが.............。