2021年10月14日木曜日

『自由を我等に』の斉唱

 今朝の朝日新聞によると、明15日から新宿武蔵野館で1930年代のフランス映画の名匠ルネ・クレールの諸作品が回顧上映される。『巴里の屋根の下』『巴里祭』『自由を我等に』などすべてフランス人らしいエスプリの効いた作品で懐かしい。

 私は戦後間も無くこれらの作品を見た。クレールの作品ばかりでなく、ジュリアン・デュヴェビエ監督、ジャン・ギャバン主演の『望郷』『地の果てを行く』などなど。戦後の英米両国の作品にも秀作は少なく無いが、戦前の外国映画ならフランスとの評価は一般的だったと思う。その中で最も好きな作品はと訊かれると困るが、後味の良さなら『自由を我等に』が断トツだった。

 親友の二人の囚人(AとBとする)が脱獄を図るが失敗し、Aを逃すためBは囚われる。逃亡したAはやがて大会社の社長となるが、そこに刑期を終えたBが再会に来る。AはBがゆすりのために来たと早合点し当初は知らぬ顔を決め込むが、再開を喜ぶだけのBをみて思わず抱き合う。しかし、それは追われる身への復帰でもあり、二人は浮浪者となる。ふざけ合いながらかなたに消える二人の姿は心を洗われる素晴らしいフィナーレだった。

 その後私は二年間、某有名進学校の世界史の教師を勤めたが、もう一人の世界史教師はフィリピン戦の生き残りと聞いていた(本人は何も語らなかったが)。その後数年たち彼の葬儀に出席するため大宮に近い京浜東北線沿線の彼の自宅を訪ねた。葬儀の終わり、現役の教え子たちが突然『自由を我等に』の主題歌を歌いはじめた。「我らの願いは自由よ この世の定めを破り 求るものは自由 朗らかな空のもと いざ行かん我が友.........」。元同僚が授業中に教えたのだろう。生徒たちの心遣いに感心しながら私も声を合わせた。最良の弔辞だと思った。

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