時間はたっぷりあるのに単行本はおろか雑誌すら手にすることが稀になった。弁解をすれば出版界は花盛り(各社の経営状態は知らず)で、単行本や雑誌、特に後者が激増したこともある。
私の学生時代には『週刊朝日』の扇谷正造、『文藝春秋』の池島進平、『暮しの手帖』の花森安治の三氏が名編集者の評判を得ていた。三人のうち池島進平は菊池寛が創刊した文芸誌を現在の総合雑誌に発展させた人物だが、私の出身大学の同じ西洋史学科の先輩であり、教授二人とほぼ同じ世代だったので年一回の学科のコンパに顔を出すこともあり、「西洋史など学んでどうするの」などと院生をからかったりしていた。同氏の言葉「作家は力士、評論家は行司、 編集者は呼び出し小鉄」は謙遜もむろんあっただろうが、大した覚悟もなくジャーナリズムに憧れても大成するとは限らないと言いたかったのではないか?
氏は三人の仲間のうち花森安治が一番偉いと語っていた。他の二人は既存の雑誌を大きくしたり、新方向に向けたりしただけだが、花森氏は商品テストを中心に新しい性格の雑誌を生んだからと高く評価した。同誌が高く評価した英国製の石油ストーブを長く愛用した我が家も花森氏の恩恵を受けたと言える!